宝塚バウホール 星組公演 ミュージカル『ベアタ・ベアトリクス』

 

宮村裕美です

 

現在、宝塚バウホールで上演中の

 

星組公演

ミュージカル

『ベアタ・ベアトリクス』

 

今回の公演にて初のバウホール公演

主演を務めるのは、極美慎さん。

 

ヒロインを務めるのは、小桜ほのかさん。

 

 

作・演出は熊倉飛鳥さん。

この公演は、宝塚歌劇団演出家

熊倉飛鳥さんの宝塚バウホールデビュー作です。

 

物語の主人公は、画家でもあり詩人のロセッティ。

彼の代表作「ベアタ・ベアトリスク」が

生み出されるまでの愛憎渦巻く人間模様を

描き上げたミュージカル作品となっています。

 

舞台は19世紀半ばのイギリス。

ロセッティがロイヤルアカデミーで

画学生をしているところから物語は始まります。

 

ロセッティや同級生のウィルたちは

古い美術観を打ち破るべく、

プレ・ラファエライト・ブラザーフッド

(前ラファエル兄弟団)を名乗り、創作活動を始めます。

 

詩人のダンテを崇拝していたロセッティは、

ダンテが書いた詩文集

「新生」に登場する理想の女性

ベアトリーチェを追い求めていました。

 

彼の前に現れたのは、帽子屋で働くリジー。

二人は恋に落ち、ロセッティは

リジーをモデルに絵を描くようになります。

 

ロセッティたちの活動は、アカデミーの反発を

受けながらも軌道に乗り始めますが

仲間の一人でもあるエヴァレットが

リジーをモデルに描いた

「オフィーリア」によって、歯車が狂いだします。

 

ロセッティはどのように

「ベアタ・ベアトリスク」を完成させたのでしょうか。

 

 

この作品では、主人公が画家というのもあり

有名な絵がいくつか登場します。

しかし、映像で映し出されたり

絵自体が舞台上に登場することはなく、

布や照明、ダンスといった様々な要素を含み

場面の一つとして絵が表現されます

 

そのため、事前に『ベアタ・ベアトリクス』や

『オフィーリア』など、今回の作品の中で

登場する絵をご覧いただいていると

‟あの絵がこんな風に

表現されているのか…!”と、

より観劇を楽しんでいただけるかと思います

 

この公演の演出の中で

特に心を奪われる一つといえばプロローグではないでしょうか。

落書きをしたロセッティたちは

全力で逃げるのですが、その際に使われるレンガの壁。

 

出演者の皆さんが後ろに隠れたかと思うと

別のところから出てきたり、

時には壁自体がクルクルと回転したり

見ているこちらもワクワクするセットとなっています

 

プロローグで登場する際の極美さんは、

星が飛び出しているかのような

きらめきたっぷりの爽やかな笑顔が印象的です。

 

自然と人が惹きつけられるのも納得の

愛らしさがあり、あの笑顔には

誰もが心を奪われるように感じました

 

 

また、とてもキュートなセットだったのは

リジーが働く帽子屋の場面

 

デザインの異なるオシャレな帽子が

たくさん飾られているのはもちろん、

色とりどりのハットボックスやリボンなど

ポップな色合いや店内の可愛さ・明るさが

ロセッティとリジーが改めて出会う場所にぴったりでした

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

 

その他にも、酒場の場面やアトリエなど

細やかな小道具にもこだわりが感じられるセットばかりでした。

 

 

画家であり詩人でもある

ダンテ・ガブリエル・ロセッティを演じたのは、極美慎さん。

 

画学生として、最初から才能が開花した

優秀なタイプではないロセッティ。

 

古い美術観のアカデミーと反発し

お酒や女性に走り、

本格的に描くことをしていませんでしたが

天飛華音さん演じる

エヴァレットとの出会いによって彼の運命が動き出します。

 

小桜ほのかさん演じるリジーと

幸せそうに微笑みあう姿や、

仲間と共に未来に向かって突き進む表情は

キラキラとした瞳にさらに光が宿り

輝きに満ちていました。

 

しかし、エヴァレットが自分よりも

リジーを上手く描いたことであったり、

大切に育て・期待してくれていた父親の想いに

答えられなかったと苦悩する場面など、

苦しげな表情も数多くありました。

 

そのため、狂気を秘めた表情や

思い悩む表情など、こんなにも

鋭くも儚げで危うい表情が出来るのかと

極美さんの新たな一面を知りました。

 

また、キャンバスに向かって筆を走らせるときの

表情や筆を持つ腕の角度・姿勢など

その姿は画家そのもので、

どこから見ても美しい体勢でありつつも、

自然な姿に極美さんのこだわりを感じました。

 

絵を描いている時の座っている状態の足元も

非常に自然で魅力的でした。

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

 

帽子屋で働く娘、

リジー・シダルを演じたのは、小桜ほのかさん。

 

小桜さんリジーの笑顔は、

まるで女神のように清らかで柔らかで

周りの人に癒しを与えます。

 

仲間たちの中で最後まで絵が売れ残り、

ひどく落ち込むロセッティにも笑顔を向け

きっと大丈夫だと励ます姿は、リジーが本来持つ

優しさや献身的な人柄をよく表していると共に、

純粋だからこそ常に笑顔でいられるように感じます。

 

しかし、気が付けば自分の元から

ロセッティが離れてしまってからは、

今までの優しさが脆さとなり

彼女自身に返ってきてしまいます。

 

ロセッティと言いあう姿は、リジーが

ロセッティを想う気持ちが分かるからこそ、

切なくどうしようもない感情になり

小桜さんの表現力豊かな歌声が

劇場全体、そして心に響きます。

 

絶望の真っ只中にいるロセッティの前に

再び姿を現した彼女は、

やはりロセッティにとって特別な存在です。

 

彼女がいたからこそ、ロセッティは

「ベアタ・ベアトリスク」を

完成させられたということが

分かりやすく伝わるのは、

小桜さんの包容力と温かさがあってこそだと感じました。

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

 

ロセッティの友人、

ウィリアム・ホルマン・ハントを演じたのは、碧海さりおさん。

 

何人かいる画学生の中でも、

最初から最後まで常にロセッティのことを

見守り続けたのが、ウィルです。

 

リジーという恋人がいながらも

ジェインに惹かれていくロセッティに

「もう彼女には近づかないと誓ってくれ」と、

リジーのことを大切にするように何度も言います。

 

個性的なキャラクターがたくさんいる中

ウィルはまじめで誠実な普通の人なのですが、

この普通の人をこれだけ魅力的に演じられるのは

碧海さん自身の周りを見る力や、支える力があるからこそ。

 

年を重ねた際のお芝居もとてもナチュラルで、

声やしぐさなどで自然に老いを表現する姿がとても素敵でした。

 

誰よりも落ち着き、自然体で

ロセッティのそばに居続ける姿がとても印象に残っています。

 

 

ロイヤルアカデミーの画学生、

ジョン・エヴァレット・ミレイを演じたのは、天飛華音さん。

 

ロイヤルアカデミーの画学生の中でも、

エヴァレットは特別で神童と評されていました。

 

しかし、ただ才能があっただけではなく、

エヴァレットは自分の才能を磨き上げるために、

これまで孤独な中、常に努力をしてきました。

 

優秀で周りと違うというのを表現するため

常に気を張ったオーラを漂わせ、

背負うものが見える表情や立ち姿など

セリフを発するお芝居だけではなく、

佇まいから天飛さんのエヴァレットとしてのこだわりを感じました。

 

年を重ねてから再び出会う、

極美さんロセッティと天飛さんエヴェレットの

まっすぐな二人のやりとりには

思わず涙を誘われ、天飛さんの

熱のこもったお芝居に心を動かされます。

 

才能を認め面倒を見てもらっていた、

ひろ香祐さん演じる、批評家のジョン・ラスキン。

その妻、瑠璃花夏さん演じるエフィーと

エヴァレットは駆け落ちをします。

 

始まりは決して美しい関係とは言えませんが、

この二人の恋は互いが互いを必要としていたのを

とても感じられ、温かな印象を受けました。

 

仕事や家事などやりたいことが自由にできず

縛られた状態の彼女をエヴァレットが救い、

また誰かを心から愛したい・愛されたいという

エフィーの愛がエヴァレットを包み込み、

出会うべくして出会う二人だったかのように思えます。

 

出会った当初から

エヴァレットの話を優しく聞き、

常に味方でいてくれる瑠璃さんエフィーが本当に魅力的でした

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

 

芝居小屋の女優、

ジェイン・バーデンを演じたのは、水乃ゆりさん。

 

とても華やかで色っぽく、まさに

みんなが目を奪われるような存在のジェイン。

しかし、彼女は

育ちがいいわけではなかったため

そんな中で自分を求め、認めてくれる

ロセッティと出会い互いに惹かれあいます。

 

登場する際のダンスシーンはとても華やかで、

長い脚が活かされたダイナミックなダンスは

ロセッティが彼女に魅了されるのも納得の

オーラと輝きに溢れていました

 

 

自然と周りに人が集まってくるロセッティと

孤独な天才エヴァレット。

純粋でまっすぐなリジーと

危なげで魅惑的なジェインなど、

対照的でありつつも、どこか重なる部分がある

様々な人物の想いが交錯し、ロセッティの物語は進んでいきます。

 

感情移入するキャラクターによって、

舞台を見る視点や物語の感じ方も

かなり変わってくる作品ではないでしょうか

 

絵画に詳しい方はもちろん、

あまり詳しくないという方でも

世界観の美しさやワクワクするような

舞台セットに華やかな衣装と、

見どころのつまった作品となっています。

 

物語最後のフィナーレでは、

本編と別にフィナーレが

付いているわけではありませんが

役の衣装を着たまま皆さんが笑顔で踊られます。

 

それぞれが目を合わせて微笑むところもあり、

ホッと心が温かくなる中で幕が閉まります。

 

出演者皆さんの輝かしい笑顔が

素敵だったのはもちろんですが、

出演者皆さんに迎えられ、舞台に登場する

極美さんの笑顔はこの公演の中で一番眩しく、

やはり笑顔の似合う極美さんだなと感じるフィナーレでした

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

 

千秋楽の9月19日(祝・月)14時30分公演は、

タカラヅカ・オン・デマンドにて

ライブ配信がおこなわれます。

 

詳しくは、宝塚歌劇の公式ホームページをご確認ください。