梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ 雪組公演 ミュージカル・プレイ『双曲線上のカルテ』
宮村裕美です
現在、梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて上演中の雪組公演
ミュージカル・プレイ『双曲線上のカルテ』
監修・脚本は石田昌也さん。
潤色・演出は樫畑亜依子さん。
この作品は、渡辺淳一さんの「無影燈」を原作に、2012年 早霧せいなさん主演の公演として石田昌也さんが作られた作品です。
再演となる今回は、演出を樫畑亜依子さんが務められています。
この公演の主演を務めるのは、和希そらさん。
和希さんは、2018年の『ハッスル メイツ!』にて、初の宝塚バウホール公演主演を務め、
2021年には、『夢千鳥』にて2度目の宝塚バウホール公演の主演を務められました。
そして、昨年2022年には『心中・恋の大和路』で東上公演初主演を務められ、今回が2度目の東上公演主演となります。
出演者は、28名の雪組の皆さんと専科より夏美ようさん・五峰亜季さんです。
夏美ようさんと五峰亜季さん、そして組長の奏乃はるとさんは早霧せいなさん主演の初演と同じ役となっています。
物語の舞台は、イタリアのナポリ近郊にある個人病院、マルチーノ・メディカル・ホスピタル。
この病院に勤務するフェルナンド・デ・ロッシは外科医として優れた腕前を持っています。
大学病院で将来を嘱望されていた彼は、なぜ民間の個人病院で生きる道を選んだのか、その経緯は謎に包まれていました。
今も外科医として第一線で活躍し、患者からの信頼も篤いフェルナンドですが、勤務中の飲酒行為や女性との火遊びを繰り返す姿が問題視されていました。
特に、医師としての理想に燃えるランベルト・ヴァレンティーノは彼に反発し、何かにつけて衝突していました。
批判的な同僚たちから彼を守っていたのは、院長の愛娘で秘書を務めるクラリーチェ・マルチーノ。
そして、新人看護婦のモニカ・アッカルドもまた数少ないフェルナンドの理解者の一人でした。
フェルナンドが抱える苦しみとは…。
和希そらさんが演じるのは、マルチーノ・メディカル・ホスピタルのエース
外科医のフェルナンド・デ・ロッシ。
当直中に病院を抜け出したり、様々な女性との火遊びなど、問題児でありながらも医師としてとても優秀であるフェルナンド。
問題行動の根底には、一人で抱えきれない死が迫ってきており、死の恐怖から逃げるように日々現実逃避をして心の穴を埋めます。
誰にも言えない苦しみを抱えた姿は、つかみどころのないようにも見え、不思議と大人の余裕や色気が感じられます。
今回、タバコを吸うシーンや白衣やジャケットを羽織るなど、男役としての美学がつまった仕草が何度も登場しますが、そのたびにナチュラルな動きながらも、とびきりかっこいい和希さんにドキドキしてしまったという方も多いのではないでしょうか。
医者としての覚悟を持ち、命を大切にしない若者たちに本気で怒るなど、患者たちとはいつも真っ直ぐに真剣に向き合っています。
患者を想って行動するフェルナンドを見ていると、本来の彼はとても真面目で優しい心を持った人物であることがよくわかります。
そんな本来の優しい彼を自然と引き出すのが、華純沙那さん演じられるモニカ。
新人看護婦のため、患者の死に立ち会う機会もまだそれほどなく、純粋な彼女は患者が亡くなった際に泣いてしまいます。
しかし、まっすぐな彼女はここから病院で少しずつ経験を積み成長をしていきます。
純粋で正直すぎるほど素直かつ真面目な彼女だからこそ、フェルナンドは彼女なら自分のことを受け止めてくれるのでは、そして自分がいなくなった後も彼女自身の足でしっかりと立ち、己の道を歩んでいけるだろうと思ったからこそ、彼女のことを愛したのだと思います。
華純さんモニカは、華純さんの本来持つ柔らかな雰囲気が役と重なり、癒し系のほわほわ~とした笑顔や心地の良い声がとても可愛いのですが、その芯には周りの人を包み、支える包容力があり、フェルナンドが自然と惹かれるのがとても納得できました。
モニカといる時のフェルナンドは、本当に幸せそうで、特に私が好きなシーンは、フェルナンドのご両親の元へと挨拶に行くシーンです。
寒いというモニカの頬に冷えた手を不意打ちに当てて、「冷たい」と大きく驚くモニカを見て、子どもがはしゃぐかのように、目がなくなるほど笑うフェルナンド…。
そんなフェルナンドに、モニカは自分が付けていた手袋を片方付けてあげます。
一瞬の幸せなのですが、本当に見ているこちらも自然と笑みがこぼれるほど癒しの空間が広がり、この素直な可愛さにフェルナンドも癒されていたのだろうなと実感しました。
モニカと同じく、フェルナンドの良き理解者の一人であるクラリーチェ・マルチーノを演じるのは、野々花ひまりさん。
院長の娘であり、華やかな見た目からも自分に自信がある様が自然と伝わってきて、控えめや可愛いという言葉の似合うモニカと反対の、押し出しの強さや美しさが似合う人物です。
モニカと親しげなフェルナンドが許せず、「私のどこがいけないのよ!」と彼に詰め寄るのですが、その際には鬱陶しそうな表情をされてしまい、「そういうとこ」と言われてしまいます。
しかし、彼女もただフェルナンドを独占したい思いから嫉妬していたのではなく、フェルナンドを愛していたからこそ苛立ちがあり、フェルナンドの病気に気づいた際には、周りに助けを求めます。
そして、フェルナンド自身も決してクラリーチェを愛していなかったというわけではなく、いずれこの世にいなくなる、未来のない自分には誰も愛する資格がないと思い込んでいたからこそ、クラリーチェとランベルトが上手くいくようにという思いもあり、突き放すようなことを口走ったのだと感じられます。
この野々花さんクラリーチェは、とてもリアルな大人の女性像という感じがして、自然なお芝居に共感を覚え、惹きつけられました。
また、リアルといえばモニカとクラリーチェ、女性同士のバチバチとした対立から、物語後半では一人の同じ人を愛した者同志の、落ち着いた空気感がとてもナチュラルで華純さんと野々花さんのやりとりも魅力的でした。
縣千さんが演じるのは、フェルナンドの同僚ランベルト・ヴァレンティーノ。
縣さんが休演となっていたため、通し舞台稽古では代役の眞ノ宮るいさんがランベルトを演じられました。
そのため、こちらにも眞ノ宮さんが演じられたランベルトについて書かせていただきます。
(※なお縣千さんは9月1日(金)13時公演より復帰されました)
一見、気だるげで自由気ままに見える和希さんフェルナンドに対して、眞ノ宮さんのランベルトは、とても真面目で熱血のイメージです。
真面目だからこそ、悪気なく思っていることをそのままに言ってしまう、事実を事実として伝えるところに「あ~こんなお医者さん実際にいそうだな」と、自然と思ってしまいました。
また、人としての気遣いや、寄り添う心が少し欠けた不器用なところもフェルナンドと正反対のようで、五峰亜季さん演じるロザンナとのお芝居にはその生真面目さにクスッとさせられました。
どんな時も全力!!という印象も強く、冷静で落ち着いた和希さんフェルナンドに対して、彼が優秀なことを分かっているからこそ理解できない!という、真っ直ぐに熱くぶつかっていくところも魅力的で、フェルナンドへのリスペクトがあるからこそ、思いを抑えられない様子が分かりやすく表現されており、和希さんと眞ノ宮さんの感情の表し方が対称的でありながらも、魅力的でした。
咲城けいさんが演じるのは、アントニーオ・リナルディ。
希良々うみさん演じるアニータの息子なのですが、とても爽やかで優しさに溢れ落ち着いた魅力があります。
登場されてきた時から一貫して好青年そのものであり、ここまで育ててくれた母親に感謝をしており、理想の息子とも言えるのではないでしょうか。
希良々さん演じるアニータ・リナルディはナイト・クラブの経営者なのですが、女手一つで息子を育ててきた、美しさと強さを兼ね添えた母親像が魅力的です。
経営者というのもあり、資金源が苦しくなった際には、愛人であるセルジオに上手く甘えるなど、女性としての賢さがありながらも、内には昔からの恋心を大切にしているところもあり、強さの中に秘められた可愛さというのも魅力の一つでした。
そして、母親が大切にしてきたその恋を無下にしない息子と、ともに助け合ってここまで生きてきたのだろうなと、親子の信頼や愛が感じられ、ふたりの関係性にほっこりとしました。
この公演は、フィナーレがあります。
物語が終わり、再び緞帳の幕が上がるとそこには眞ノ宮さんが中心となった男役の皆さんが黒のハットとスーツ姿で登場されます。
かっこよくキザに踊られた後には娘役の皆さんも加わり踊るのですが、この時の娘役皆さんのドレスは、紫が基調となりポイントにピンクが使われたドレスです。
裾にボリュームがあり、なおかつ大きくスリットが入ったデザインのため、男役の皆さんとペアになって踊られた時など、回転する時にスカートがふわっとなびいてとても優雅でした。
そして、青や紫がグラデーションになった大人っぽくも鮮やかなジャケットの和希さんが登場されます。
舞台奥から手前に来られ、娘役の皆さんと順番に踊っていくのですが、この時の色っぽい目線に余裕を感じられ、大人の雰囲気たっぷりです。
フィナーレの際の和希さんは地毛なのですが、踊りつつも何度か髪をかき上げたり整える仕草がこれまた素敵で、うっとりとしてしまいます。
やはり和希さんといえば抜け感のある、一つ一つの動作が決まりながらもメリハリのあるダンスが魅力的ですが、今回もどの一瞬を切り抜いてもかっこいい、そんなゆとりを感じさせる踊りが魅力的でした。
群舞の後は、舞台上で衣装チェンジをし、華純さんが登場されて和希さんと華純さんのデュエットダンスです。
おふたりの衣装は、落ち着いたオレンジやゴールドがベースとなった暖色系の衣装。
華純さんのドレスの裾の素材と同じ軽やかで細かいプリーツが和希さんのジャケットの後ろ部分にも付いており、おふたりが踊るたびに優雅に揺れるプリーツがなんともロマンティックな雰囲気を醸し出し、美しい空間が広がっていました。
そして何と言っても、和希さんが華純さんを見る時の瞳がとても優しくて印象に残っています。
腰を支える瞬間、手を取り引き上げる瞬間、踊りながら目を合わせるたびに、キラキラとした瞳で爽やかに微笑む表情は、まるで温かな光で包み込むように優しく、そんな優しい表情を見て、幸せそうにふんわりと微笑みかえす華純さんがこれまたとびきり可愛らしく、多幸感に溢れる癒しのデュエットダンスでした。
現在、梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて上演中の雪組公演
ミュージカル・プレイ『双曲線上のカルテ』は、9月5日(火)まで上演され、
その後、日本青年館にて9月11日(月)~19日(火)まで公演がおこなわれます。