梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ 星組公演 ミュージカル・ロマン『夜明けの光芒』

宮村裕美です

 

6月3日(月)~6月8日(土)まで梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ

6月14日(金)~6月20日(木)まで東京建物 Brillia HALLにて上演されました

星組公演

ミュージカル・ロマン『夜明けの光芒』

 

脚本・演出は鈴木圭さん。

 

この公演にて主演を務めたのは、暁千星さん。

暁さんは、2022年に日本青年館ホール・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて上演されました『ブエノスアイレスの風』-光と影の狭間を吹き抜けてゆく…-が東上公演初主演、今回の公演が2度目の東上公演主演となります。

 

東上公演初のヒロインを務めたのは、瑠璃花夏さん。

 

この公演はイギリスの文豪チャールズ・ディケンズの代表作「大いなる遺産」が元になっており、宝塚歌劇では1990年に月組公演「大いなる遺産」が上演されました。

 

物語の舞台は、19世紀初頭のイギリス、テムズ川河口の片田舎。

姉の嫁ぎ先である鍛冶屋に引き取られた孤児のピップは、近所の大邸宅であるミス・ハヴィシャムから、養女エステラの遊び相手として招かれます。

高慢ですが美しいエステラに心惹かれ、彼女に見合う紳士になりたいという願いを抱くピップでしたが、間もなく義兄の元で鍛冶屋の道を歩み始めます。

それから数年後、突然ピップのもとに莫大な財産の相続人に指名されたとの知らせが届きます。

紳士になるため、故郷の人々に別れを告げ、ロンドンへと旅立つピップ。

田舎暮らしとは一変した夢のような暮らしを謳歌する彼を待ち受けるものとは…という物語。

 

開演前になると音楽が流れるのですが、その音楽事態は明るいはずなのにどこか暗さを感じる不思議な空気感が漂います。

開演時間になると、いくつかの時計の音が鳴り、こちらもまるで不幸の始まりかのような不穏な時間の始まりに思えます。

 

激しい音楽に合わせてはじめに舞台に登場されるのは、闇ダンサーの皆さん。

この闇ダンサーの皆さんが登場される場面がいくつかあるのですが、男役さんも娘役さんもキレッキレでとても迫力のあるダンスに、今から何が始まり、どう進んでいくのだろうかと物語に引き込まれるプロローグとなっています。

 

そして、そこに登場するのは少年ピップ役の藍羽ひよりさん。

幼いピップは、手錠をつけた脱獄囚に脅されるがまま、自宅から食糧とヤスリを盗み、恵んでしまいます。

脱獄囚はすぐに警察によって捕らえられるのですが、この出来事はピップの心に強く焼きつきます。

物語の最初のこの展開が、のちに物語に大きく関わってくることになります。

 

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暁千星さんが演じたのは、ピップことフィリップ・ピリップ。

美稀千種さん演じる義兄でのジョーと澪乃桜季さん演じる姉のジョージアナの元で、鍛冶屋として働いています。

幼い頃、大邸宅に住むエステラと出会ったことから、いつかは紳士となりエステラに見合う男性になりたいと夢見ています。

 

鍛冶屋である場面は短いのですが、一生懸命鉄を打つ姿も真面目で素敵で、綾音美蘭さん演じる幼馴染のビディに、紳士になることが夢だとキラキラした瞳で語る部分が本当に爽やかで魅力的です。

そこから紳士を夢見て、ロンドンへ出るためにコートに身を包んで登場する暁さんですが、初々しくもとびきりかっこよく、どの衣装も素敵に着こなしていらっしゃいました。

 

エステラのことをただひたすらに愛する姿も印象的ですが、ロンドンへ出てきて紳士となるため学ぶピップが、困難に出会うも、最終的に生きるために大切なものとは何なのか、ピップが学んでいく成長の過程が暁さんによって豊かに表現された作品となっています。

 

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瑠璃花夏さんが演じたのは、ミス・ハヴィシャムの養女エステラ。

ミス・ハヴィシャムによって、感情のない冷たい女性として育てられたというのもあり、幼い頃から高慢でわがままです。

しかし、そんなわがままも許せてしまう艶やかな美しさに心を奪われてしまいます。

 

少女のエステラを演じるのが乙華菜乃さんなのですが、すでに可愛く美しい!

そこから、大人となったエステラを瑠璃さんが演じられるのですが、鮮やかな真っ赤なドレスをスッと美しく着こなし、表情や視線からは、まるで他人へ興味のないような冷たい心が感じられるのですが、ピップといるときの彼女の微笑みはどこか楽しそうで、エステラ自身も自分のことを見た目の美しさだけではなく、全てを愛してくれる、自分をわかってくれる人を求めているように感じられます。

 

瑠璃さんといえば、歌声はもちろんセリフの声も美しく、他人への関心のなさ、高慢さが声のお芝居からも感じることができ、まさに高嶺の花といえばこんなイメージなのだろうなと感じる、気高さと美しさから、特別な女性、他とは違うというのが一目で感じられ、魅力的でした。

 

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天飛華音さんが演じたのは、ベントリー・ドラムル。

全身真っ黒な衣装に身を包んでおり、今回ドラムルと闇の二役を演じられました。

 

どこからが闇で、どこからがドラムルととてもはっきりと役が成り立っているというよりかは、闇がドラムルであり、暁さん演じるピップの光を飲み込もうとする、ピップと対になっている存在が闇、ドラムルなのだと感じます。

 

天飛さん、なんと宝塚おとめの演じてみたい役に一人で二役演じ分けるような役と書かれており、夢が叶った配役なんですよね。

 

天飛さんの印象といえば、パッと明るく周りを照らすようなイメージですが、今回の公演ではシャープなアイメイクにじっとりとしたオーラをまとい、全身で暗さであったり闇を表現しており、こんなにもダークな天飛さんはまた新しいなと、鋭いかっこよさが印象的でした。

 

暁さんピップと天飛さんドラムルの場面の中で、私が個人的に好きだった場面は、紳士になるための社交界で揉めることになる2人。

腕比べだと、腕相撲をするのですが、そこはやはり鍛冶屋で日々鍛えられていたピップがドラムルに勝つこととなり、紳士を目指しているにも関わらず勝負は腕比べなのか~と、少し可愛らしいなと思えてしまいました。

しかし、闇として、苦しむピップの近くで踊る天飛さんは、それはそれは悪い顔をしており、ダークな空気をまとう天飛さんの表現がかっこよく心を奪われました。

 

稀惺かずとさんが演じたのは、ピップの同居人ハーバート・ポケット。

非常に明るく、すぐにピップとも仲良くなります。

出会ってすぐの頃は、少しピップを引っ張るかのような、自分の空気に他人を巻き込む自由さも感じられるのですが、ピップのために協力をしたりと、本当に心の優しい良い人です。

 

援助を特に受けているわけではないハーバートは地道に働いており、愛花いとさん演じるクララが恋人であり、いつか一緒になれればと夢見る2人なのですが、優しいハーバートは、クララの尻に敷かれているような様子で、どこまでも可愛らしいキャラクター性を感じることができました。

 

 

この公演のフィナーレは、物語の続きとして始まります。

ピップとエステラが互いの想いを話し、心を通じ合ったのちにデュエットダンスからフィナーレが始まります。

王子様のように爽やかに瑠璃さんを見る暁さん、暁さんと同じ振り付けの際には、全く同じ角度でポーズをとるなど、幸せいっぱいの表情で心を暁さんに合わせて踊られるおふたりのデュエットダンス。

 

幸せな気持ちが瞬間瞬間に詰まっており、物語の幕が開いた時にはこんなにも幸せなデュエットダンスが待っていたとは考えられない、とても多幸感に溢れる魅力的なデュエットダンスでした。

 

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その後は、天飛華音さん率いる出演者の皆さんで踊られます。

最初は男役さんたちだけで踊られ、続いて娘役の皆さんも出てこられて…という流れなのですが、一つ一つの振り付けがかっこよく、リズムは早いのですが踊られる皆さんのキレの良さ、男役さんも娘役さんもかっこよさが非常に際立っており、あっという間のダンスパートでした。

 

そして最後は、暁さんおひとりでのダンス。

白いシャツに水色のジャケットとパンツ、左肩からジャケット全体に斜めにスパンコールが散りばめられています。

ジャケットの裾が、右側は短めで何層かになっており、左側は長くなっているというのもあり、暁さんが踊られるたびに大きく布がなびく様子が美しく、階段の上から登場されてこられた時には、プリンス?と思うほど、一瞬でパッとその場が明るくなりました。

 

途中紙吹雪が落ちてくる中で、ゆったりとしなやかに踊られるのですが、ターンの美しさ、脚の高さや手の角度、回りだす前のポーズからすでに安定感があり、ダンサーの暁さんだからこその丁寧で美しい余裕のあるダンスが、ゆったりとした優雅な時間を作り出しており、心奪われる本当に美しい振りの数々でした。

 

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パレードでは、少女エステラの乙華菜乃さんと、少年ピップの藍羽ひよりさんが、いろんな人達と仲良く絡む中で、出演者の皆さんが順番に挨拶をしていかれ、ニコニコと目を合わせる乙華さんと藍羽さんが非常にキュートで、明るく楽しい雰囲気の中、幕がおりました。