宝塚バウホール 月組公演 アドベンチャーロマン『BLUFF(ブラフ)』-復讐のシナリオ-
宮村裕美です
東京芸術劇場プレイハウスにて、8月30日(金)~9月8日(日)まで上演され、
宝塚バウホールにて、9月14日(土)~9月19日(木)まで上演されました、
月組公演
アドベンチャーロマン『BLUFF(ブラフ)』-復讐のシナリオ-
作・演出は正塚晴彦さん。
この公演は、1990年に月組の久世星佳さん主演で
上演された作品の再演作品です。
主演は、風間柚乃さん。
風間さんにとって、東上公演初主演となった今回の公演。
宝塚バウホールにて上演されました、2021年の
『LOVE AND ALL THAT JAZZ』…ベルリンの冬、モントリオールの春…にて、
宝塚バウホール初主演を経て、
今回 東上公演初主演を務められました。
ヒロインを務めたのは、花妃舞音さん。
花妃さんは、新人公演でヒロインを務めた経験はありますが、
今回の公演が別箱公演の初ヒロインとなりました。
風間さんと花妃さんの組み合わせといえば、
月組生として暁千星さんが主演を務められた
『ブエノスアイレスの風』を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
『ブエノスアイレスの風』では、風間さんが兄、花妃さんが妹として兄妹役をされており、これまでもお似合いのイメージがありましたが、今回の公演でもおふたりの並びを見ていると、とてもお似合いのおふたりだと改めて感じました。
舞台は、1950年代のアメリカ。
天才詐欺師ドノヴァンは、生まれ育ったスラム街の医師である、
恩人が殺害されたことを知ります。
仲間と共に復讐を誓ったドノヴァンは、
綿密な調査と準備の後、マフィアが経営する闇カジノへ変装して忍び込みます。
描いたシナリオ通りの罠を仕掛けたドノヴァンに、
ギャンブラーを夢見る青年ロジャーが近付いてきます。
やがて彼の姉シャロンと出会ったドノヴァンは、計画変更を思い付き……という物語。
この公演、開演前には舞台上に、少し凹凸のある壁が並んでいます。
この壁のセットは、壁の前側が時に人々が行き交う道として使用されたり、はたまた建物として使用され、中から人が出てきたように演出されていたりと、様々な場面で使用されていました。
今回の公演は、風間さん演じるドノヴァンをはじめ、
仲間たちが生まれ育った街の恩人の死を知り、復讐のために立ち上がるところからスタートします。
真っ黒な服装のドノヴァンたちが、手袋を使った振り付けで冒頭踊るのですが、このフォーメーションの変わるダンスがこれまたかっこよく心を奪われます。
全身黒い衣装に身を包み、黒いハットを被った風間さん。
ハットから見えるその瞳はとても鋭く、静かに心を燃やしていることが伝わってきます。
風間柚乃さんが演じたのは、天才詐欺師のドノヴァン。
カジノの場面では、老紳士に扮しているのですが、最初はまさか舞台中央で賭け事をしている老人が風間さんとは気が付かず、見事な変装術に驚きました。
小さなリアクションや動きが、年齢を重ねた老人に見えるのはもちろん、話しだしてもこれまた驚きで、声や話し方までもが年齢を重ねています。
その後の歌う場面でも、風間さんの普段の歌声ではなく、明らかに年齢を重ねている声での歌声そのもので、まるでその人が、本当に舞台上に実在しているかのような、風間さんの自然なお芝居が印象に残っています。
今回の公演では、変装をしている場面も多いのですが、パリッとスーツを着こなすと、これまたとってもスマートにキマッており、風間さんはスーツの着こなし方に、昔ながらの男役の魅力を感じます。
少し顔を悩ませる表情や、眉間にチカラを入れた表情など、険しい表情もかっこよく、言動からは常に落ち着いた様子が伺え、冷静ではあるものの、やはり内側から湧き上がる熱い思いが伝わってきました。
花妃舞音さんが演じたのは、冴えない女の子のシャロン。
これまた、登場してきた時には、大劇場のショーなどでキラキラと輝くあの花妃さんは?と、驚くほど、不器用そうで冴えない女の子が。
大きなメガネにおさげで、やんちゃな弟に全力で怒る姿も、もはやコメディでは?という可愛さがあり、かなりの不器用なことが、見てすぐに分かります。
シャロンは、ドノヴァンによってキュートな見た目に大変身しますが、復讐のために彼女をドノヴァンが選んだのは、きっと彼女の見た目からだけではなく、その純粋な心があるからこそ、自分たちの作戦が成功すると信じていたからではないのかなと思います。
様々なことに疑問を持ちつつ、迷いながらも、ピュアな心で真っ直ぐに、ドノヴァンと共に前に進んでいきますが、少しずつドノヴァンに惹かれていく姿が見ていて自然とわかる、健気な姿も愛らしさそのものでした。
シャロンの弟、ロジャーを演じたのは、彩海せらさん。
大ギャンブラーを夢見ており、真面目にコツコツと働く姉をバカにする、とんでもない弟なのですが、そこに愛嬌や愛らしさ、どこかほっておけない…という魅力が感じられるのは、彩海さんが演じたからこそのキャラクター性だと思います。
思いのままに生きている印象で、姉の仕事にこれ以上関わるなとドノヴァンに忠告されますが、そんなこともお構いなしに姉の周りを詮索します。
乃々れいあさん演じる、花屋のキティを気に入るのですが、物語が進むにつれて、段々いい雰囲気になってきたふたりかと思った矢先、最終的には相手にされず、キティが通り過ぎる時の彩海さんロジャーの何とも言えない表情も、可哀想ではあるものの、可愛さが感じられとても印象に残りました。
佳城葵さんが演じたのは、マフィアのボス・メンデス。
風間さんドノヴァンたちが復讐を誓うのが、佳城さん演じるメンデスです。
彩みちるさん演じる妻のアイリーンの尻に敷かれ、物語の中ではメンデスとアイリーンが登場するたび、強烈な夫婦喧嘩をおこないます。
マフィアのため、怖い人ではあると思うのですが、
亡くした恋人にそっくりなシャロンに心を奪われ
とても優しく接するなど、根が優しい人のように見受けられるのは、佳城さんの落ち着きや周りに振り回されるのが似合う、柔らかな雰囲気があるからこそだと思いました。
メンデスの妻、アイリーンを演じたのは彩みちるさん。
ゴッドファーザーの姪であるアイリーン。
「あんたがやんなきゃ誰がやんのよ!!!」と、とにかくメンデスに掛ける言葉は、どれもこれも圧の感じる強い言葉ばかりです。
しかし、それもこれも、マフィアのボスであるメンデスが、部下にバカにされないため、ボスとしてしっかりしてよという、メンデスを想ってのアイリーンの愛だとは思うのですが、使えない部下をすぐに毒殺してしまうなど、やはりかなりの過激派です。
演じるにあたり、あれだけ大きな声で強い言葉を投げかけるには、かなり体力を使うと思うのですが、美しいのにとにかくパワフルな彩さんが、本当にかっこよく男前です。
佳城さんメンデスと彩さんアイリーンの、急に始まるタンゴも、痴話喧嘩のやり取りをしつつ見事に踊るおふたりで、その息ピッタリさにはついつい笑いがこみあげてしまいました。
高翔みず希さんが演じるのは、ドノヴァンの仲間マローイ。
ドノヴァンの仲間は、他に瑠皇りあさん演じるシドー、羽音みかさん演じるレディ・デイ、雅耀さん演じるアヴェリーと、個性豊かな仲間たちがいます。
高翔さん演じるマローイは、ことあるごとにスペイン語を言い、色々とお話ししたがるところを、羽音さん演じるレディ・デイに回収されていき…と、大人な雰囲気がありながらもチャーミングさのあるマローイが素敵でした。
また、闇カジノの場面で脚が大きく出た衣装で踊る羽音さんが色っぽくもかっこよく、そのスタイルの良さとキレのある美しいダンスに心を奪われました。
この公演のフィナーレは、お芝居の続きのようにすぐにフィナーレが始まります。
まずは彩海せらさんをはじめとする男役の皆さんでイスを使ってのダンスです。
お芝居の中では、ベレー帽を被っており弟らしさのある、可愛い彩海さんでしたが、フィナーレになるとシックなブラウンのスーツをビシッと着こなし、クラシカルに踊られます。
椅子の上に足を乗せてポーズを取られたりと、小道具を使っての振り付けもかっこよく、どの振り付けも品がありながらも男役としての王道な魅力が感じられ、お芝居とのギャップが素敵でした。
その後には、彩みちるさん率いる娘役の皆さんが踊られます。
それぞれデザインの違うロングドレスで皆さん踊られるのですが、長い裾の衣装も見事に扱いイスに座った状態で足を上げられるなど、美しくもかっこよく踊られます。
そして、花妃さん・風間さんが登場し、男役と娘役がペアとなって踊られます。
娘役の皆さんが、イスに立った状態から、そこから降りてのリフトがあったりと、引きで見ても美しい振り付けです。
最後には、風間さんが花妃さんの肩に手を回しつつ歌うところもあり、ここでやはりおふたりの並びがとてもお似合いだなと感じました。
そして、幕が閉じる直前には、イスに座った状態の花妃さんが、それはそれは、ちゃめっ気たっぷりに、立っている風間さんを見上げ、微笑むのですが、そんな花妃さんを見つめる笑いあうおふたりがとても魅力的なフィナーレでした。