宝塚バウホール 花組公演 バウ・ワークショップ『殉情』
宮村裕美です
現在、宝塚バウホールで上演中の
花組公演
バウ・ワークショップ
『殉情』
今回の公演にて初のバウホール公演
主演を務めるのは、帆純まひろさん。
ヒロインを務めるのは、朝葉ことのさん。
監修・脚本は石田昌也さん。
潤色・演出は竹田悠一郎さん。
谷崎潤一郎の名作
『春琴抄』をミュージカル化したこの作品。
1995年に星組宝塚バウホール公演として
絵麻緒ゆうさん主演で上演され、
2002年には同じく絵麻緒ゆうさん主演により雪組で上演されました。
2008年には宙組バウ・ワークショップとして
早霧せいなさんと蓮水ゆうやさん主演で再演されました。
今回も、2008年の再演と同じように
公演期間で主演が異なります。
10月13日(木)~10月21日(金)までは
帆純まひろさん主演。
10月30日(日)~11月7日(月)までは
一之瀬航季さん主演で上演されます。
物語の舞台は、明治時代の大阪。
薬問屋の盲目の娘、春琴に仕える
佐助の愛と献身を描き、その美しくも残酷な
究極の愛の形に迫る作品となっています。
帆純まひろさんが演じるのは
薬問屋鵙屋に奉公する丁稚、佐助。
幼いころから春琴の手を引き、
歩くときの支えをしてきました。
最初はみんなと同じように働く中で
春琴のお手伝いをしているところから、
そのうち全ての世話をするようになります。
春琴にどれだけきつい言葉を掛けられようとも、
常に優しく広い心で受け止め・支えます。
春琴に想いを寄せているのですが、
その深い愛が向かいすぎてしまったが故に
悲劇が起こってしまいます。
帆純さんが本来持つ、優しくポカポカとする
柔らかな日差しや温もりを感じるような
温かな人柄が活きた、誠実で真っ直ぐな佐助。
春琴のことが大好きですが
その好きには異性としてだけではなく、
人としてお師匠として
尊敬の気持ちもつまっていて、
あくまでも自分の立場をわきまえ
どこまでも尽くし支えるその姿は
まさに献身という言葉そのもの。
いつも周りをよく見ていて
落ち着いた印象のある
帆純さんの品のよさが役に活き
いい人というのに説得力がありました。
お芝居をしている時の帆純さんの美しい表情を
いつも素敵だなと思っていたのですが、
この佐助の役は特に美しさが際立っているように感じます。
春琴に向ける柔らかな視線や表情
想いが強くなりすぎてしまい
時には苦しむ場面もありますが、
そんな苦悩する表情までも美しく
どの瞬間を切り取っても非常に美しかったです。
真っ直ぐすぎて、異様ともいえる
佐助から春琴への愛ですが、元は
春琴のそばで仕えることが何よりの幸せであり
少しずつ春琴が彼の全てとなっていったのが
物語を見ていて伝わってきます。
1幕のラストには春琴から着物を
もらうのですが、‟嬉しい!!!”という気持ちが
表情はもちろん、全身から溢れ出ていました。
伸びやかな歌声にそんな喜びの気持ちも乗り
とても可愛らしい場面でした。
朝葉ことのさんが演じるのは、
両眼を失明している鵙屋の次女、春琴。
ご両親に甘やかされて育った
わがままなお嬢さんそのもので、
目を閉じていても感情が分かりやすく
どの着物姿も思わず目が離せなくなるほど美しかったです。
佐助や利太郎に三味線の稽古をつける時に
「ちーがーう」と何度も言うのですが、
このセリフ一つとっても
“なぜ教えたことが分からないの”という
春琴の強い気持ちが表れており、
朝葉さんの表現力の虜になりました。
本当は、佐助のことを
とても大切に想っているのにも関わらず
つらく当たってしまう春琴。
好きだけど素直になれない
健気でいじらしい姿が愛らしかったです。
鳥かごの鳥を眺めつつ
佐助を想って歌う「素直になれない」は、
声に透明感があり
自由に飛んでいけたらいいのに…
という切ない想いも相まってとても素敵な歌声でした。
峰果とわさんが演じるのは
雑穀商美濃屋の放蕩息子、利太郎。
こちらも甘やかされて育った
ぼんぼんなのですが、
春琴とはまた違ったキャラクターで
自分には何でもある!
何でもできる!と、かなりポジティブな性格です。
ちょっぴり嫌な人ではあるのですが
峰果さんが振り切って全力で演じているため
可愛いところもあり、魅力的な登場人物の一人です。
さりげない間や言い方、動きなど
峰果さんのコメディセンスが爆発しており、
通し舞台稽古では
峰果さん利太郎が登場した瞬間に
自然と拍手が湧き起こっていました。
梅見の宴の場面では春琴と佐助が演奏する前に
お蘭たち芸者の皆さんが歌って舞うのですが、
それを弟分の千吉と一緒に見て
楽しそうにはしゃぐ姿が可愛らしく印象に残っています。
千吉を演じているのは
天城れいさんなのですが、
利太郎と一緒にはしゃぐ姿や
常にテンション高めでツッコミを入れる姿など
とっても可愛い弟分です。
しかし、春琴を自分のものにするはずの計画が
失敗した利太郎に向かって
「若ぼん、このままでええんですか。」と、
利太郎の復讐心に火をつける
ダークさも秘めており、目が離せない存在です。
もう一人、利太郎の周りにいる
魅力的な人物の一人といえば
詩希すみれさん演じる、芸者のお蘭。
春琴と同じ師匠の元に通っている
相弟子なのですが、
春琴の才能や器量、家柄を妬み、悔しがります。
この悔しがる姿は、まるで目で
殺しにかかっているかのような鋭さを秘め
春琴と女同士の
バッチバチの空気感が見事なのですが
ここまで一切譲らずぶつかりあえるのも、
朝葉さんと詩希さん同期同士ならではなのかもしれません。
春琴を自分のものにしたい
利太郎に協力するため
佐助を色仕掛けで落とそうとするも、
以前会ったことを全く覚えていない佐助。
こんなに美しい芸者さんが
相手をしてくれるのであれば
利太郎のように本来喜ばれるものを
春琴しか見えていない佐助にとっては
春琴と離れていること自体が心配で不安で、
全力で嫌がられている姐さんが
不甲斐ないのですが、ちょっぴり可哀想すぎて
可愛くてますます好きになってしまいます。
また、春琴を痛い目に合わせようと企む
利太郎と千吉に対して、察したお蘭は
「それだけはあきまへん!」とやめるよう懇願します。
この姿を見ると、根は優しくて
ちょっぴり嫉妬が行き過ぎただけで、
本当は器量がいい姐さんというのがよくわかります。
春琴とはまた違った美しさと強さのある詩希さんお蘭も素敵でした。
この作品では私たちと同じ目線に立ち、
佐助と春琴二人について学ぶ
令和の大学生が登場する現代パートがあります。
大学生のマモルとユリコが
佐助と春琴のお墓を見つけ、
先生から二人について教えてもらい
学ぶところから物語が始まります。
希波らいとさんが演じるのは
現代の若者、大学生のマモル。
YouTuberとして活動をはじめたところで、
春琴抄をテーマとした動画を作ることにします。
まさに現代の若者にぴったりな
爽やかなルックス。
ナチュラルに大学生を演じており、
軽やかな雰囲気だけど
実は真面目で鈍感なところがとっても可愛く、
ユリコとの絶妙な距離感が微笑ましかったです。
美里玲菜さんが演じるのは
現代の若者、ユリコ。
マモルが教わっているゼミの先生とは初対面で
「ふたりはカップルなの?」と聞かれ、
「そんなんじゃないです!」と、
全力で否定するものの
実は少しずつマモルのことが気になり
好きになっていきます。
季節ごとに変わっていく服装が
どれも可愛いのですが、
特にお正月のシーンの振袖姿は
誰がどう見ても可愛いの一言に尽きます。
しかし鈍感なマモルは
「ねぇ、なにか言うことはないの?」
と言われても、可愛いの一言すら
言うことができません。
そんなマモルに怒る姿もこれまた可愛く、
素直になれないところが
春琴と重なるところもありますが
少しずつ距離が縮まるマモルとユリコにも
ご注目いただきたいと思います。
マモルとユリコ
いじらしくも愛らしい二人を優しく見守り、
アシストしてくれる大学の先生
石橋教授を演じるのは紅羽真希さん。
マモルが懐くのも納得の、
ちょっぴり抜けているような可愛らしさのある先生です。
紅羽さんの人当たりの良さが活きた
チャーミングな教授で、
この現代の3人のやりとりがほっこりとします。
昔と現代、二つの時代を行き来しながら
皆さんも佐助と春琴を見守り、
観劇を楽しんでいただけたらなと思います。
そして、この公演は物語の最後に
ちょっぴりですがフィナーレがあります。
ピンクの衣装の春の精に扮する
娘役さんが舞う中、
帆純さんと朝葉さんが登場され、二人で踊られます。
登場してこられた時から柔らかな笑顔で
踊る中でもにこやかに目を合わせ
幸せいっぱいなフィナーレとなっています。
出演者の皆さんが順番に出てこられて
挨拶をされるパレードでは
それぞれ役に合ったポーズをされるのが
素敵で印象に残っています。
そして、最後には出演者の皆さんに
温かな眼差しで見守られる中、
堂々とした姿で帆純さんが登場されます。
出演者の皆さんで
一つの作品を作り上げているのがとても伝わる
温かな空間を感じる公演でした。
千秋楽の10月21日(金)15時公演は、
タカラヅカ・オン・デマンドにて
ライブ配信がおこなわれます。
詳しくは、宝塚歌劇公式ホームページをご確認ください。