梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ 雪組公演 ミュージカル・フォレルスケット 『海辺のストルーエンセ』
宮村裕美です
現在、梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで
上演中の雪組公演
ミュージカル・フォレルスケット
『海辺のストルーエンセ』
この公演にて主演を務めるのは、
朝美絢さん。
作・演出は指田珠子さん。
朝美さんは、2021年に宝塚バウホール
KAAT神奈川芸術劇場にて上演されました
ロマンス『ほんものの魔法使』にて
東上公演初主演を務め、今回の公演が2度目の東上公演主演となります。
この公演は
すでに2月3日(金)〜2月12日(日)に
KAAT神奈川芸術劇場にて上演され、
梅田芸術劇場シアター・ドラマシティでの公演期間は2月24日(金)〜3月2日(木)までとなっています。
物語の舞台は、18世紀中葉のデンマーク王国。
小さな町医者ヨハン・ストルーエンセは、
啓蒙思想に傾倒し、保守的な医療現場を改革しようと奮闘していました。
新しい考えを広め、いつか大きな世界で
活躍したいという野心を抱くヨハンは、
その美貌と賢さ、エレガントな立ち振る舞いを武器に専属医として王達に近づきます。
そこで目にしたものは、
享楽に耽る王クリスチャンや
無能な王を放任し国政を牛耳る宮廷官僚達、
我が息子を王位に就かせようとするクリスチャンの継母ユリアーネとその一派、
そして異国に慣れず王と不仲の王妃マチルデ。
宮廷は「病」に満ちていました。
国政を握り、世直しを行うチャンスとばかり、
「治療」を開始するヨハンでしたが、次第に孤独な王妃に惹かれていきます。
果たして2人の、そしてデンマークの向かう先は・・・。
朝美絢さんが演じるのは、
町医者のヨハン・ストルーエンセ。
麗しいビジュアルで貴族のご婦人たちを
虜にしており、治療のシーンでは
華やかな音楽と色とりどりの鮮やかな照明も
相まって、朝美さんのキラキラっぷりに拍車が掛かっていました。
ご婦人たちだけではなく
様々な人を虜にしていく姿に説得力があるのは
朝美さんの麗しさあってのことだと強く感じました。
今では、まるで出まかせに近いような
名ばかりの治療をしているヨハンですが、
物語の冒頭では町医者として真面目に働くも
当時のヨハンは
その時の何歩も先を行き過ぎていたため
その考えは受け入れられず、病院を追い出されてしまいます。
人々にとっていい国にしたいという
強い気持ちがあるからこそ、
その思いが複雑にこじれてしまうのですが
本来は優しく真面目なヨハンという姿が
描かれているのもあり、物語が進むにつれて
ボロボロになっていく姿にはより心惹かれてしまいます。
また、物語最後のシーンでは
無理に噓をついていることが明らかに
わかるという、見た目や言動が
麗しいだけではない、ボロボロになりながらも
周りの人を想うがゆえに強がる
ヨハンの姿が描かれているところも印象的でした。
真那春人さん演じるランツァウ伯爵と、
諏訪さきさん演じる
イーネヴォルト・フォン・ブラントにより
宮廷に連れられ、縣千さん演じるクリスチャン7世の治療を行います。
ヨハンは野心を持っているというのもあり、
なかなかの暴れん坊であるクリスチャンにも自然なさまでグイグイと迫り
クリスチャンを変えていきます。
そんな、どんなこともスマートに成し遂げる
ヨハンだからこそ、音彩唯さん演じる
カロリーネ・マチルデと
初めてキスをした時のヨハンの表情はとても印象的でした。
スッと自然な流れでキスをした後、
どこを見ているのか
不思議な視線・力の抜けた表情で、
そこには困惑も含めて
様々な感情が入り乱れていると思うのですが、
この時の朝美さんヨハンの表情からは
自分の想いに気が付いた瞬間というのが一目で分かります。
恋の始まりであり、
破綻の道への始まりでもある1幕のラストは
この作品の美しい世界観を芸術的に表現されていたように感じます。
指田珠子さんといえば、
2019年に宝塚バウホールにて上演されました
星組公演『龍の宮(たつのみや)物語』など
美しい場面を描かれる印象がありますが、
この1幕ラストにも
儚くて脆い刹那的な美しさを感じ、心を奪われました。
音彩唯さんが演じるのは、デンマーク王妃
カロリーネ・マチルデ。
活発だった幼少期が描かれているところなどを
見ると、カロリーネが本来は快活な人であることが分かります。
しかしイギリスからデンマークへ嫁いできて
孤独というのもあり、宮廷では自分の本心を隠し
心を閉ざして生活をしています。
音彩さんの透き通るような透明感や可愛らしさは
周りとは違う特別な空気やオーラを感じ、
より王妃の孤独感と相まって陰の美しさがあります。
しかし、ヨハンと出会うことによって
本来の自分を取り戻し
軍服姿で堂々としている姿はまさに太陽のように
暖かく、真っ直ぐな強い意志を
心の中では持っているというのが非常に納得できました。
本当の気持ちを表現できるように、
自分の中に閉じ込めていた心を解き放ってくれた
ヨハンに惹かれていくのですが、
好きになってからのヨハンしか見えない!という
ときめく乙女心が全身から溢れ出た姿は
キュートそのもの。
また、何よりもこの作品では
ロココ調の華やかドレス姿の場面が多いですが
どの衣装も本当によくお似合いで、
可愛らしさと内に秘める元気さ
しかし今は少し頭の固い王妃というのが
とてもナチュラルで、音彩さんの持つ雰囲気にぴったりでした。
縣千さんが演じるのは、デンマーク国王
クリスチャン7世。
愛すみれさん演じる
継母ユリアーネ・マリーエに
幼少期より厳しく英才教育をたたき込まれ育ちました。
しかし父は酒と女に溺れたすえに亡くなるという
生い立ちもあり、孤独や周りの圧から
身を守るように、遊んでばかりの決して王らしいとは言えない王です。
縣さんといえば、前回の雪組大劇場公演
『蒼穹の昴』でも
孤独な皇帝を演じられていましたが
今回の公演ではヨハンに操られる王を演じます。
酒場で酔っ払い、役者たちに手を挙げる姿など、
はたから見れば野蛮で豪快で
わがまま放題振舞っているようにも
見えるのですが、
本当は国民を引っ張っていくことのできる
人々にとってのいい王になりたいという思いがあります。
自分ではどうすることもできない、
これ以上傷つきたくないという考えから
一見大胆に見えながらも
内では繊細さを秘めているところが、
ダイナミックな舞台技術で魅了しつつも
ご挨拶などはハートフルで
特別な言葉で劇場全体を包み込むような
多面的な魅力を持つ 芸術肌の縣さんにぴったりな役だなと感じました。
物語の冒頭では
心を閉ざしているカロリーネに対して
どう接すればいいか分からないというのもあり
非常に冷たく横暴に振る舞うのですが、
ヨハンの治療もあり
少しずつカロリーネとも打ち解けていきます。
物語を通して、最終的には
広い心と大きな優しさでヨハンに接する
成長した姿が見られるところも素敵でした。
諏訪さきさんが演じるのは、元侍従長
イーネヴォルト・フォン・ブラント。
クリスチャンと共に好き勝手しているのを
よく思わないユリアーネとその一派により、
宮廷を追い出されてしまいます。
ヨハンを使って再び宮廷で
クリスチャンの元で働けたらという
ちょっぴり軽めのキャラクターでは
あるのですが、実はクリスチャンのことを
とても大切に想っており
その思いが少しずつ言動に表れていくのが印象的でした。
最初は治療のために
宮廷へとやってきたヨハンでしたが
次第には権力を持つようになり
クリスチャンをも蚊帳の外にし
自分の理想へと突き進むため、
そんなヨハンに対して敵対するように
強い言葉でヨハンを責めます。
クリスチャンを想っているからこそ
心を開いたヨハンにクリスチャンが
傷つけられるのは許せないという
重ための愛情がつまったお芝居が本当に魅力的でした。
そして、だからこそ最終的には
ヨハンを守ろうとしたところにも
全てはクリスチャンを想う心が
あるからだと感じられ
諏訪さんの芝居心が活きた役に心を奪われました。
この作品は魅力的な場面ばかりですが、
その中でも特に印象に残った場面をご紹介したいと思います。
物語が始まる場所でもあり、
作品名にもある海辺が何度も登場します。
波の引く音が聞こえ、舞台背景として
波模様のセットがある
比較的シンプルな舞台上ではあるのですが
ヨハンとカロリーネが惹かれあうきっかけの場所となるなど重要な場面を担っています。
そんな海辺の場面の中でも、
海辺がオレンジの照明で照らされた場面は
より物語の世界観が美しくきらめき
心に残る演出でした。
他には、宝塚の作品ではお馴染みの仮面舞踏会の場面。
ロココ調の衣装の皆さんが舞台上で踊るため
色とりどりの花が舞うような
華やかさに溢れるのですが
そんな中で、優雅さを兼ね備えてスタイリッシュに踊る朝美さんヨハン。
縣さんクリスチャンと音彩さんカロリーネは、
他の人を押しのけてるようにかき分け
中央で激しく踊りあう姿もかっこよく
鮮やかかつ華やかさな場面でした。
そしてほかの公演ではあまり見ない場面といえば
ヨハンやカロリーネはもちろん、ユリアーネなど
宮廷の人々も含め様々な人がテニスをするシーン。
実際にテニスボールを
打ち合うわけではないのですが、
ボールを跳ね返す軽快な音に合わせて
出演者の皆さんがラケットを振る姿が素敵でした。
お芝居後のフィナーレでは、
男役の皆さんと娘役の皆さんが組んで踊られるところからスタートします。
幕が開くと、そこには
ポーズをとられた皆さんがいらっしゃるのですが、
どのカップルもとても素敵なポーズで
静止しており、すでに始まる瞬間からときめくフィナーレです。
男役の皆さんは、落ち着いたピンクの変わり燕尾。
パンツと燕尾服の中のシャツは黒なのですが、
娘役の皆さんのドレスが
上半身は黒で裾に向かってピンクゴールドに
なっているグラデーションのドレスと
色味がリンクしており、華やかなでおしゃれな空間が広がります。
皆さんが踊るたびに
燕尾服やドレスの裾が美しくなびき
ターンをするたびにより舞台がパッとより明るくなるのを体感しました。
そんな中登場される朝美さんは、
スパンコールやビジューがたくさん付き
キラキラと眩い輝きを放つ黒の燕尾服で踊られます。
一つ一つのダンスや決めた表情、
楽しそうな笑顔とそのすべてが美しく輝いていました。
朝美さんと音彩さんのデュエットダンスは、
少しお芝居のふたりの関係性も感じる
非常にロマンチックで
最後までときめきいっぱいのフィナーレとなりました。
現在、梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで
上演中の雪組公演
ミュージカル・フォレルスケット
『海辺のストルーエンセ』は
3月2日(木)までの上演です。