アフガニスタンの思い出

11月12日(日)17:30からのエフエム宝塚「サンデー・トワイライト」

上野が2003年にアフガニスタンを訪問した思い出を語ります。

10月6日にノーベル平和賞の受賞者が発表され、
イランの人権活動家、ナルゲス・モハンマディさんが受賞されました。
選考委員会は授賞理由について、
「女性に対する弾圧と闘い、人権と自由を守るためにも闘った」と語っています。

イランでは去年9月に、
女性が公共の場で着用を義務づけられている「ヘジャブ」のかぶり方が不適切だとして逮捕され、
その後女性が死亡したことで、警察への抗議デモが各地で起こりました。
この件について、
当時、女性の人権擁護や死刑廃止活動などで警察に拘束されていたナルゲス・モハンマディさんは、
獄中からSNSに発信したり、メディアで意見を述べて連帯を表明。
ノーベル平和賞の受賞者発表の際も獄中にいて、現在も拘束中だそうです。

この、女性の頭部や顔を覆い隠すスカーフ、
イランの場合は「ヘジャブ(ヒジャブ)」と呼ばれ、頭髪を覆いますが、
「チャドル」では顔を隠し、
「ブルカ」「ニカブ」になると顔だけでなく身体も覆い隠すものになります。
この「ブルカ」をアフガニスタンカブールの町でよく見かけました。
街の中をこのブルカを着用して歩くと、
クルマの排気ガスなどがブルカの下部から入り込み、
女性たちの喉や目などに障害を与えます。
実際、目の病気になっている人、咳が止まらない女性が多くいました。

そしてつい先日ネットニュースで、
アフガニスタン・バーミアン近くの美しい湖「バンディ・アミール」に、
女性が立ち入り禁止になったという情報を得ました。
その理由は、この湖に観光に訪れていたアフガン女性が「ブルカ」を外してしまったことによるとか。
気持ちのいい湖畔で、思わず頭部や顔を覆う布を外してしまうのは共感できることです。
しかし、タリバン暫定政権はその行為を許せなかったのでしょう。

この湖は砂漠の中の蒼い宝石と呼ばれる景勝地で、
上野は2003年に出かけました。
今は道が整備されてバーミアンの町から比較的楽なドライブで行けるそうですが、
当時は砂漠の中の砂地のゆるい道を延々と走るダートコースで、
しかも地雷原が広がっていて、なかなかスリリングなドライブでした。

このバンディ・アミール湖の思い出と、バーミアンで知り合った少年の話をします。
父親のいない少年は、出稼ぎで家にいない母の代わりに幼い弟の面倒を見、
学校に通っていないので毎日、バーミアンの町へ30分歩いて通い、
通りで路面の店を開いている大人たちの手伝いをして小遣いを稼いでいます。
彼は、少し前までこの地に駐在していた米国兵から英語を学んだので、
話をすることができ、
ドル紙幣しか持っていない上野が路面の野菜を購入したいという願いを、
店主と交渉してまとめてくれたりしました。

その後、石の上に座って少年と交わした20分くらいの会話は今も印象に残っています。
そして別れ際、上野は彼に小さな銀色のブルースハープ(10音のハーモニカ)をプレゼントしました。
夕日を浴び、身をよじって喜ぶ少年の姿が忘れられないです。
アフガンでは永らく歌舞音曲が禁止されていて、
歌はもちろんのこと楽器を奏でるなんてことはできなかった。
少年はこれまで口笛は吹いたことはあったけど、楽器を演奏したことはなかったと言います。
ハーモニカは息を吹き込めば鳴る簡単な楽器。しかし少年は照れ臭がって吹きません。
やがて、意を決して息を吹き込むと、頼りない、かすれた音が聴こえました。
「ウワー!」と彼は躍動しました。
踊るように直立したり身を屈めたり、よほどのことだったのでしょう。

バーミアンからカブールに戻り、さらに次の撮影地であるインドに向かう途中、
上野は「果たしてあの少年にハーモニカという楽器を渡して良かったのだろうか?」という疑問に襲われ、
だんだんとそれが不安の要素を含んで大きくなっていきました。
アフガン社会は、長老、村長、地域の司令官等によって構成されていて、
常に地域の住民の行動を見守っている。
だが、言い換えれば、見守るが張るなり、つまり監視されていることになる。
そこであの少年が持っている銀色の西洋楽器、これを見て大人たちはどう考えるか……。
上野は、少年が旅の者からもらったハーモニカによって処罰されたり、
少年の家に何らかの抑圧があったりしたらどうしようという思いにとらわれたのでした。

そんな、今から20年前のアフガニスタンでの思い出です。
そして、最近大きな地震で多くの被害者を出したアフガン西部の町
ヘラート出身の歌手、バラン・アリアさんの歌を流します。
タイトルは「アフガニスタン」。
♪~美しいアフガニスタンよ、私はもうそこには帰れない~♪という哀愁を歌っています。
彼女は今、ドイツ・ミュンヘンで暮らし、多くの歌を世に送り出しています。
すばらしい歌です。