宝塚バウホール星組公演 幻想秘抄『にぎたつの海に月出づ』
樽井美帆です
宝塚バウホール星組公演
幻想秘抄『にぎたつの海に月出づ』が1月24日(金)から上演されています。
主演は極美慎さん。
2014年に初舞台を踏まれた100期生で、入団11年目です。
新人公演では2度主演をつとめられました。
新人公演初主演をつとめられたのは入団4年目、2017年「ベルリン、わが愛」。
100期生初、同期生の先頭をきっての新人公演初主演でした。
今回は、2022年の『ベアタ・ベアトリクス』以来2度目のバウホール公演主演となります。
『ベアタ・ベアトリクス』では、画家であり詩人でもあるロセッティを演じられました。
そして、演出家・熊倉飛鳥さんの宝塚バウホールデビュー作でした。
今回も演出家・平松結有さんの宝塚バウホールデビュー作。
極美さんは、飛鳥時代の百済の青年を演じていらっしゃいます。
出演は星組29名のみなさんと専科の悠真倫さんです。
「熟田津(にぎたつ)に 船乗りせむと月待てば 潮もかなひぬ 今は漕ぎ出でな」
万葉集に残された額田王の力強い一首の歌をモチーフに、
一人の百済人青年の歴史に語られない物語が紡ぎ出されます。
時は飛鳥時代。
朝鮮では、百済が新羅に攻められていました。
大和の女帝・斉明天皇(詩ちづるさん)は、百済を救うため援軍を出すことを決意。
世に言う「白村江の戦い」ですが、大和軍は惨敗したのでした。
彼女はなぜ戦うことを選んだのか・・・。
遡ること数十年前、百済人の青年・智積(ちしゃく・極美慎さん)は
留学生(るがくしょう)として大和にやってきました。
推古天皇に拝謁するために小墾田宮を訪れた智積は、
大和の娘・寶皇女(たからのひめみこ・詩ちづるさん)と出会いましたが、
何かに怯え震える寶皇女を忘れられずにいました。
智積は、百済人の僧・観勒僧正(かんろくそうじょう・悠真倫さん)のもと、
同じく百済人の留学生・覚従(かくじゅう・碧海さりおさん)とともに学堂を開き、
書を教え始めます。
そこで寶と再会。
幼い息子を亡くし夫と離縁した寶は、深い悲しみを抱えつつも
自らが仕える推古天皇(瑠璃花夏さん)の役に立つため懸命に学んでいました。
やがて二人は惹かれあい愛を育んでいきますが、歴史の渦は彼らを放ってはおきませんでした。
百済を利用して勢力をのばそうとする蘇我氏、蘇我から国を守ろうとする推古天皇、
ひそかに寶を想う田村皇子(たむらのみこ・稀惺かずとさん)・・・。
さまざまな思惑によって引き裂かれる智積と寶。
愛する人を奪われた智積は、何を思い、どう生きるのか。
大きな月が静かに輝き、波の音が聞こえてきます。
極美慎さんのしっとりした開演アナウンス。
私が取材をさせていただいた通し舞台稽古では、極美慎さんのお名前に続いて、
演出家の平松結有さんのお名前にも拍手が送られていました。
星咲希さんの美しいカゲソロの歌声の中、二人の人物が話をしています。
年老いた寶皇女と覚従です。
唐に滅ぼされそうになっている百済に援軍を送ってほしいと覚従が頼んでいます。
そこで鈴の音がシャララン・・・
今大和にはそんな余裕はないと一度は断った寶皇女ですが、
一転百済を救うために援軍を送ることを決意。
その経緯となる鈴の音の部分が描かれていきます。
大きな船の舳先のセットが登場し、その前で白村江の戦いが繰り広げられます。
迫力の立ち回り。
バウホールは大劇場よりも舞台と客席の距離が近いので、より立ち回りの迫力を感じます。
そんな戦いの中、月の光を背に受け、知的な温かい笑顔で、
静かに優しく船の舳先に登場する智積。
水色の衣装でゆったりと歌います。
瞳がキラキラと輝き、えくぼが魅力的な笑顔。
一瞬でそのあふれるオーラと魅力に惹きつけられます🤩
優雅でありながらも芯がぶれない美しい歩き方、自然なセリフ回しとお芝居。
芯がぶれないのは、幼稚園から中学2年生になるまで習っていらっしゃった
空手が影響しているのでしょうか😊
極美慎さんが演じていらっしゃるのは、
百済人の留学生・智積。
何よりも目が多くを語るお芝居が魅力的。
視線が自然なのでお芝居に説得力を感じます。
そして、笑顔が美しい。
美しすぎて見とれるとは、極美さんの笑顔のためにある言葉のよう✨
極美さんの笑顔はとても不思議で、うれしさだけでなく、悲しみも切なさも感じるんですよね。
背中を客席に向けて登場し振り向くという演出が何ヶ所かあります。
振り向いたら美しい極美さんの笑顔があることは、もう明らかに分かっているのですが、
極美さんが振り向くのを待っている数秒間が、とってもドキドキするということが
今回私の発見でした。
ドキドキドキドキ💗キターッ😍という感じでしょうか。
極美さんのキラキラの瞳は、特に見つめる瞳が美しい!
愛する人には、温かく深い愛情いっぱいの瞳。
幼い子どもたちには、優しく見守るような瞳。
友人には、信頼と少しやんちゃがにじむ瞳。
自分を憎む人にさえ、誠実な瞳を向けます。
一度も憎しみや汚れを感じる瞳はありませんでした。
それこそが、この作品で描かれた智積という人物なのだと思います。
また、極美さんの立ち回りは力強く美しく優雅。
捉えられて乱れた姿になっても、愛する人のために笑顔。
本当に美しいです。
人を包み込む美しい包容力と立ち居振る舞いに、終始うっとりでした。
詩ちづるさんは、のちの皇極天皇・斉明天皇となる寶皇女。
口元が上品で、日本物のお化粧が愛らしい詩さん。
歌声もセリフの声も透き通ってキラキラしています。
可愛い中に芯があって強さを感じるのが詩さんの魅力✨
可愛い寶皇女から、人や大和の国のことを考える天皇という立場になっていく過程の変化を
表現されている詩さん。
姿だけでなく声にも貫録が増していきます。
年老いた姿は、本当に詩さんなの?と思ってしまうほどです。
極美慎さんと詩ちづるさんは、お芝居のカラーや質がとても合っていて、
見ていて本当に美しいお二人。
お二人だからこそ描き出せた美しい世界だったと思わずにはいられません。
私が特に印象に残っているのは・・・
筆を持つ寶の手が震えていることに気づいて、そっと手を添える智積。
触れた手に動揺し智積を意識してしまう寶。
ラストシーンでも小舟の中で二人の手が触れ合います。
その時の寶のうれしそうな顔!
私は、この二つの場面の手の触れ合いがつながっているように感じました。
お互いを思い合う美しすぎる場面です。
泣くことを我慢して日々を懸命に生きている寶に、
「泣きたい時は泣けばいい。」と声をかけ、
泣き始めた寶の前にさりげなくそっと立ち、広い背中で隠してあげる智積。
その優しさに、客席の私たちが泣いてしまいますよね。
「いつまでいられるのですか?」と智積にたずねる寶。
二人の間には身分だけでなく、時間という壁もあることを実感する言葉が切ないですね。
「また私の話を聞いてくださいますか?」とたずねる寶に、
「私でよければ喜んで」と、あくまでも相手に寄り添って答える智積。
愛する人からそう言われたら、テンション高く答えてしまいそうですが、
智積は優しくサラリと答えます。
それに安心したのか寶は、智積の肩にそっと頭をあずけます。
二人の喜びと悲しさ、すべてが詰め込まれたシーンだなと感じました。
極美さんの身長175㎝、詩さんの身長160㎝、その差15㎝。
詩さんのお顔立ちが可愛らしいので、実際よりも身長差を感じる気がします。
上から優しく見つめる極美さん、下から見上げる詩さん。
その美しい構図にうっとりしました😍
また、その身長差を生かしたシーンがありました。
書棚の高いところにある書物が取れずに困っている寶に、
軽々取って優しく渡してあげる智積。
飛鳥時代にもこんなステキな時間が流れていたんだなと、
約1300年前の飛鳥時代を愛おしく思ってしまいました。
二人を結んだのも書ですが、引き裂いたのも書。
それを巻物形式の書を使って表現するダンスシーンも見どころの一つです。
後の舒明天皇、田村皇子は稀惺かずとさん。
高貴な生まれながら、愛する人を手に入れることだけは思い通りにならない。
理性と本心で揺れ動く気持ちを見事に表現されていました。
純粋に寶を愛している時のキラキラ好青年から、ライバルがいると確信してからの変貌ぶり。
ライバルを罠にはめてでも、愛する人を自分のものにしようと画策する表情は、
まるで何かにとりつかれたかのよう。
目の奥深くから燃え上がるものを感じます。
どんなに病に伏そうとも、聡明で高貴な育ちであるという品位と清潔感は失われない
稀惺さん演じる田村皇子。
愛する人と国の幸せを願う場面、歌声は感動的でした。
輝咲玲央さんの蘇我蝦夷。
これまでも多くのステキなおじさま役を演じてこられた変幻自在な役者・輝咲さん。
今回は、赤い衣装に黒々した眉毛・口ひげ・あごひげ。
深くてよく響くステキな声。
このお話しの中では悪役なのかもしれませんが、輝咲さんの悪役はいつもカッコイイです😍
強力な魔力でも持っていそうな迫力とカリスマ性を持った蘇我蝦夷でした。
推古天皇は瑠璃花夏さん。
貫録と悲しさが絶妙なバランスで保たれているように感じました。
心に迫る静かな歌声に説得力があり、これまで瑠璃さんが演じられてきた役とは雰囲気が違い、
新しい瑠璃さんの魅力を見せていただきました。
百姓の女の子・小鈴を演じていらっしゃる鳳花るりなさん。
歌声が美しく、懸命に生きようとする生命力を感じました。
フィナーレでは、青を基調とした飛鳥時代の衣装の男役のみなさんがダイナミックに踊り、
続いて白い衣装の娘役のみなさんが優雅に踊ります。
極美慎さんと詩ちづるさんの幸せいっぱいのデュエットダンスのあとは、
極美さんが一人残り煌く舞台で踊ります。
最後には、舞台の上からピンク色の花びらがハラハラと。
それを笑顔で見つめる極美さん。
8月11日付で、星組から花組へ組替えとなる極美さんへのプレゼントでしょうか😊
最後のご挨拶は、演じられた役の衣装でみなさんが登場。
専科の悠真倫さん、組長の美稀千種さんをはじめ上級生のみなさんは、
経験からにじみ出る渋さとあたたかさで舞台を引き締められ、
下級生のみなさんは一つの作品の中で様々な役、
元気いっぱいの子役などを演じられていて、素晴らしい舞台に感動しました。
今回、セットの中で私が印象的だったのは朱塗りの大きな門。
門は、人の心や立場の象徴のように感じました。
門が開くと心が開かれたように、閉じると心も閉じられたように。
また、宮殿には限られた人しか入ることができないことから、
身分が違えば門一つ隔てて自由に会うこともできない。
そんな印象を門のセットから感じました。
また、悲しみ、憎しみ、企みが入り乱れた戦いを表現する赤い照明も印象に残っています。
宝塚バウホールデビューをされた演出家・平松結有さんの書かれる作品は、
セリフが美しいなという印象を受けました。
ゆったりした中にも緩急が心地よく、すーっと自然とお話しの流れが頭に入ってきて、
登場人物の言葉にも心情にもすんなり共感できました。
透明感あふれる美しく感動的な舞台に、清らかな気持ちで劇場をあとにしました。
宝塚バウホール星組公演
幻想秘抄『にぎたつの海に月出づ』は、2月4日(火)までの上演となり、
千秋楽公演はライブ配信が行われます。