宝塚バウホール月組公演『雨にじむ渤海(パレ)』

樽井美帆です

 

宝塚バウホールにて、

月組公演 亡国封史『雨にじむ渤海(パレ)』が、

1月21日(水)から2月4日(水)まで上演されています。

 

主演は、礼華はるさん。

礼華はるさんは、2015年『1789』で初舞台を踏まれた101期生。

入団11年目です。

新人公演の主演は2回つとめていらっしゃいます。

2023年、「月の燈影(ほかげ)」でバウホール公演初主演。

今回、2度目のバウホール公演主演となります。

 

作・演出は、平松結有さん。

出演は、月組29名のみなさんと専科の一樹千尋さんです。

 

礼華さんのバウホール公演初主演「月の燈影(ほかげ)」のポスターを、

みなさん思い出してみてください。

 

月組『月の燈影(ほかげ)』ポスター

 

礼華さんの幸蔵と彩海せらさんの次郎吉が二人で映っていました。

今回の『雨にじむ渤海(パレ)』でも、ポスターには礼華さんと彩海さんお二人で映っていますね。

 

月組『雨にじむ渤海(パレ)』ポスター

 

ポスターが発表されてから、

どんなストーリーなのだろうと色々と想像されたのではないでしょうか。

 

昨年、星組公演『にぎたつの海に月出づ』で宝塚バウホールデビューされた

演出家・平松結有さんの2作目。

『にぎたつの海に月出づ』は、透明感あふれる美しく感動的な作品でしたので、

早くまた平松さんの作品が観たいと願っておりましたら、

今年早々に実現しました。

 

時は10世紀。

長きにわたり中国大陸を統治してきた唐が滅亡、

朝鮮半島を統一した新羅(シルラ)も相次ぐ反乱の末、

国は三つに分断されました。

海東の盛国と呼ばれた幻の国・渤海(パレ)。

 

渤海(パレ)もまた隣国・契丹(きったん)に攻め込まれ、滅びようとしていました。

その国の最後を見届けた王の名を、テ・インソンと言います。

 

渤海(パレ)の王であるインソン(礼華はるさん)は、度重なる暗殺の危機に見舞われていました。

幾度となく人に裏切られ、命を狙われてきた王の目は冷たく、孤独に歪み、

人々から恐れられていました。

ある晩、王宮への帰り道、インソンは何者かに谷底へと突き落とされますが、

市井の民セウォン(彩海せらさん)に助けられ、一命をとりとめます。

インソンは、王の身分を偽り、民と変わらない生活を営み始めます。

命を奪われる恐怖から解放されたインソンは、セウォンの生き方に触れるうち、

その温かさに心溶かされ、二人は次第に心を通わせていきます。

 

一方、王の訃報を受け取った王宮では、権力争いが激化。

王妃ウンビン(乃々れいあさん)は、自ら王座を守ろうとするも、

様々な人物の私利私欲により、渤海(パレ)は滅亡へと追い込まれていくのでした。

 

自分の国が沈みゆくことを知ったインソンの、王としての人生が再び動き出していきます。

謎多き国・渤海(パレ)を舞台に、一人の王の生き様をフィクションとして描き出す、

歴史ファンタジーです。

 

幕が上がると舞台いっぱいに設置されたセット。

高さのある王宮、階段の上に置かれた玉座、切り立った岩。

バウホールの規模とは思えないほどの大きなセットが隙間なく置かれていて、

一気に物語の世界へ入っていくことができます。

 

ストーリーテラーの役割をされている渤海(パレ)の外交大使ペグ・真弘蓮さん。

太く深い耳心地の良い声で引き込んでくださいます。

 

主要人物が勢ぞろいするプロローグは、みなさんの目力により迫力満点。

 

月組『雨にじむ渤海』1

 

礼華はるさんは、渤海(パレ)の15代目にして最後の王テ・インソン。

「15代目国王、テ・インソン陛下」と呼び込まれ、

階段の上に置かれた玉座に座っての登場。

中国王朝の豪華な黒と金の衣装、腰までの長い黒髪が、身長178㎝の礼華さんに映えます。

足をグッと開いて座り、その膝の上に置かれた手。

怒っているのでもにらんでいるのでもない、感情を感じない目と固く結んだ口。

人として生きているように感じない、ただひたすら目の前で起こっている現実のみを見て、

人の心や話は受け入れない固い心を感じます。

階段の一番高いところに置かれた玉座に座ることができるのはたった一人。

同じ場所から同じ景色をともに見てくれる人はいない孤独感のある場所なのだと、

礼華さんの佇まいから感じました。

 

『GUYS AND DOLLS』のナイスリー・ナイスリー・ジョンソンや、

『ゴールデン・リバティ』の無法者ディーン、『Eternal Voice 消え残る想い』のカイなど、

弟的な雰囲気の役や、憎めないかわいらしい雰囲気の役とは、全く雰囲気の違う役。

 

相手のお芝居を受けての受け身が魅力的な方だなと思っていましたが、

今回もその魅力を最大限に発揮されていたように感じます。

周りの人々によって、自分の生き方を考え、思いに気づいていく過程が、

とても丁寧に演じられていました。

 

国を守るため、国のためなら誰も信じないという生き方のインソンは、

常に人を疑っている目の動かし方で冷たい視線。

自分で自分の言葉に小さくうなずく姿に、信じているのは自分だけなんだと感じました。

でも、自分でも気づいていない、心のどこかで感じている悲しみも伝わってきます。

礼華さんが背負う孤独の影、最高です。

 

助けてくれたセウォンから「名は?」と明るくにじり寄られながら聞かれて、

じりじりと後ろに下がっていく時の表情に、礼華さんにしか出せない雰囲気が出ています。

戸惑ったり困った時の表情も最高。

 

明るく一生懸命生きる村人の中、一人無表情なインソン。

無表情だけれども、決して本当に表情がないわけではありません。

無表情だと感じさせる様々な表情を礼華さんはみせていらっしゃいます。

初めて見る風景や接する人たちに振り回されながらも、

新鮮な反応をみせるインソンです。

 

生きるさだめを見つけた時の輝きと力強さは、物語が始まった時と同じ人物とは思えないほど。

心が完全に溶けきった表情です。

色んな選択がある中で、迷いながらも進んでいくインソン。

自分が道を選ぶということは、時には人に頼り、人の人生さえも左右してしまう。

そのことに気づくことがいかに大切かを感じさせていただきました。

 

礼華さんの歌声がさらに深くダイナミックになられたように感じました。

舞台と客席に圧のある渦を巻き起こすかのような迫力がありました。

 

月組『雨にじむ渤海』4

 

乃々れいあさんは、インソンの妻・王妃 ウンビン。

2023年に入団された109期生。

入団3年目。

新人公演のヒロインを1度つとめていらっしゃいます。

『GUYS AND DOLLS』新人公演では、愛嬌たっぷりなミス・アデレイドを演じられましたね。

今回がバウホール公演初ヒロインです。

 

力強い瞳の輝き。

貫録、優しさ、気品、愛する人への思いの繊細な感情が、

目や表情、声のトーンや震えから伝わってきます。

 

守ってもらうのではなく愛するものを守るために戦うカッコイイ王妃ウンビン。

見事な立ち回りを披露されています。

そんなウンビンを尊敬の眼差しで見つめるインソン。

「あなたは強い人だ」とウンビンに言うインソン。

ウンビンの気持ちを考えると、その言葉はとても切なく感じました。

 

月組『雨にじむ渤海』3

 

凛々しくも心に響く優しい言葉を、大切な人たちに送り続けるウンビン。

特に泣き崩れる場面は心が苦しくなりました。

気づかないふりをすれば、自分は立場を守り、愛する人の側にいられたかもしれないのに・・・。

インソンの前では、強く凛々しく振舞っていましたが、

愛するがゆえに本心を見せまいとギリギリを保っていたんだと感じ心が震えました。

 

暗殺されかけたインソンを助ける渤海(パレ)に住む民セウォンは、

彩海せらさん。

とにかく明るく陽なオーラ。

だからこそ、インソンの心に一直線に入っていって、

インソンの心を動かしたのではないでしょうか。

 

兄のように守ったり、インソンの知らない世界を見せたり、弟のように慕ったり。

インソンは、自分に普通に触れてくれたセウォンに動揺しつつも、

心のどこかで安心したのではないかと感じました。

生きていくために疑うしかなかったインソン、逆に信じるしかなかったセウォンが出会い、

真逆の生き方をしてきた二人の運命が動いていきます。

 

彩海さんの明るくも切ない表情、伸びやかで美しい歌声。

カッコよく美しく愛らしい、様々な表情から目が離せません。

 

インソンとセウォンの二人の場面で印象的なのが、木でつくられた素朴な橋。

橋の外に足を投げ出して座り、二人で語り合うインソンとセウォン。

足がついていないという不安定さの共有と、同じ景色を見ている感覚になりそうですよね。

 

そして、布を使っての表現も印象的です。

雪が降ってきたので、自分が肩にかけていた布をセウォンと自分の頭上に広げて守るインソン。

自分を守ってくれたインソンに動揺し、自分の気持ちにも動揺しているセウォン。

自分が着ていた赤い着物を、インソンがセウォンにかけてあげる場面も。

相手を守る、包み込むという優しさを表現しているように感じるステキな場面です。

 

月組『雨にじむ渤海』2

 

契丹の王・一樹千尋さん。

一樹さんといえば、お髭。

『儚き星の照らす海の果てに』でのタイタニック号の船長さんの白いお髭もステキでしたが、

今回は、グレーの口髭と顔を覆うほどのもみあげとつながった顎鬚。

そして、衣装の襟元や帽子の顔周りにも茶色のファーが付いているので、

それも相まって迫力満点のステキなお髭姿です。

 

舞台での豪快な高笑い、そして舞台袖に消えられるにしたがい、

音響さんに頼るだけでなく見事にご自身でデクレッシェンドして消し去る笑い声が芸術的でした。

 

大きな刀を振り回しての立ち廻りも、歌声も、ダイナミックな悪がカッコイイ一樹さん。

そして、フィナーレでのお手振りが可愛い一樹さんです。

 

ウンビンの護衛武者キョンの七城雅さん。

常にウンビンのそばに控えています。

視線も遠くを見るようだったり節目がちだったり。

表情も無表情なのですが、忠実でウンビンを守るためなら命をかけるという

強い気持ちが感じられます。

そして美しいです。

時折見える心の動きや、インソンを見る冷たい目つき。

ウンビンのことをお嬢様と呼ぶキョン。

ウンビンが嫁ぐ前から長い間そばでつかえてきた忠誠心や、

つかえる中で生まれずっと秘めてきた思いを感じることができました。

インソンとウンビンの婚礼式でのキョンからは、

お嬢様を傷つけるものは王でも許さないという気迫も感じました。

そんなキョンがウンビンへ向ける眼差しと差し伸べる手はいつも優しく・・・。

最後までウンビンの心を尊重し従うキョン。

ウンビンに優しく手を差し伸べるキョンの姿に救いを感じました。

忠誠心と自分の中の秘めた思いの間で揺れ動く、とても美しく魅力的なキョンでした。

 

強くてカッコイイ女性たちが、この作品を明るく活気づけています。

セウォンの親友クムラン・白河りりさん、

セウォンの妹ヨウォン・帆華なつ海さん、

契丹の刺客テピョン・桃歌雪さんら。

立場は違っても、自分の愛よりも、相手の幸せを考えている姿が潔くカッコいいです。

 

軽やかな身のこなし、野心にあふれた魅力的な色気を放つ

契丹の王子・瑠皇りあさんは、舞台に出てこられるたびにダイナミックなオーラを感じます。

 

幼き頃のテ・インソンを演じていらっしゃる彩姫みみさん。

王になる前のインソンが、どれだけ大らかで明るくて、

周りの人たちを信じ大好きだったかを表現されています。

経験と環境によってインソンが変わってしまったことへの説得力を感じました。

 

黒い衣装の夢奈瑠音さん、瑠皇りあさん、七城雅さんが登場しフィナーレスタート。

お芝居で心揺さぶられ続けた私たちに、カッコよすぎるダイナミックなダンスで、

さらに揺さぶりをかけてこられます。

鋭い眼光でビシバシキレキレのダンス。

男役さんが加わり、最後に礼華さんが加わります。

センターでビシッと踊る礼華さんがこれまたカッコイイ😍

礼華さんに代わってセンターで踊る彩海さんも、しなやかなダンスで魅了してくださいます。

そんな切ない表情で踊らないでと思ってしまいます。

 

白い衣装の礼華さんとピンクの衣装の乃々さんがデュエットダンス。

乃々さんと入れ替わりに水色の衣装の彩海さんが登場し、礼華さんと踊ります。

 

月組『雨にじむ渤海』5

 

演出家・平松結有さん、どうしてそんなに私たちの心をお見通しなのですかと思うほど、

観る人の心を動かす作品。

一幕と二幕の間の休憩時間も、どっち?どっちなの?とドキドキさせていただきました。

心地よい流れと間と会話、セリフの美しさ。

 

出演者みなさんにピタリと役が当てはまるオリジナル作品。

とても自然に役を生きていらっしゃる月組のみなさん。

この方でこういう役が見たかったのよという私たちの思いと見事に一致していて気持ちよかったです。

 

すべてを活かして一つの舞台として完成された作品。

個々と全体の統一感が見事に一つになっていて、とても感動しました。

美しい曲も心に残っています。

 

平松さんに、今回もたくさんツボを押していただきました。

宝塚歌劇のまた新たな扉が開いたかのような作品です。

 

1月31日(土)14時30公演はライブ配信が行われます。

詳しくは、宝塚歌劇公式ホームページをご覧ください。