宝塚バウホール星組公演『銀二貫』
樽井美帆です![]()
宝塚バウホールにて、
星組公演 浪華人情物語『銀二貫』-梅が枝の花かんざし-
が、6月12日(金)から27日(土)まで上演されています。
主演は、稀惺かずとさん。
バウホール公演初主演です。
稀惺かずとさんは、2019年「オーシャンズ11」で初舞台を踏まれた105期生。
入団8年目です。
2023年「1789」、2025年「阿修羅城の瞳」で新人公演の主演を2回つとめられました。
原作は、髙田郁さん。
宝塚市ご出身です。
脚本は谷正純さん、演出は鈴木圭さん。
谷正純さんは、昨年お亡くなりになられましたので、鈴木さんが谷さんの想いを大切に演出を担当されています。
『銀二貫』は、2015年に雪組で初演。
元月組トップスター月城かなとさんのバウホール公演初主演として上演されました。
今回10年ぶりの再演となりました。
出演は、星組29名のみなさんと専科の汝鳥伶さんです。
舞台は、商人の街として栄えた大坂天満。
ある雪の日。
若い侍が父の仇だと男に刀を振り下ろし、さらに男を庇う息子にも斬りかかろうとしたその時、
通りかかった寒天問屋「井川屋」の主人・和助が、その仇討ちを銀二貫で買わせて欲しいと申し出ます。
若い侍は、銀二貫を受け取りその場を立ち去っていきました。
実はその銀二貫は、大規模な火災によって焼失した天満宮再建のために、必死で回収したお金だったのです。
仇討ちにあった男は命を落とします。
残された息子は、藩士の息子・彦坂鶴之輔(稀惺かずとさん)。
父を亡くし、故郷も無くし、生きる道を失った鶴之助は、和助(汝鳥伶さん)の言葉に導かれ、
寒天問屋「井川屋」の丁稚となり、名を「松吉」と改め、侍ではなく商人として生きていくことになります。
和助に命を救われた松吉は、井川屋の人々や、
得意先の料理屋「真帆家」の嘉平(朝水りょうさん)や娘の真帆(乙華菜乃さん)ら、
周囲の深い愛情に支えられ、商人としての道を歩み始めるのでした。
しかし、天満宮を焼き尽くした火事から6年が経った日の夜、再び町を大規模な火災が襲います。
真帆が住む町にも火が迫り、松吉は井川屋を飛び出していくのですが・・・
開演前の舞台には、両サイドに梅柄のちょうちんが灯り、公演タイトルが映し出されています。
稀惺かずとさんの開演アナウンスは、優しく情感たっぷり。
幕が上がると、舞台にはハラハラと雪が舞い、梅の木にも雪が積もっています。
まず登場するのは、汝鳥伶さん演じる寒天問屋「井川屋」の主人・和助。
茶色の衣装で、杖を持って歩いています。
もうそれだけで哀愁や商人としての誇りを感じます。
そんな和助の目の前で仇討ちが行われます。
和助は土下座をして、若い侍に銀二貫で仇討ちを買わせて欲しいと懇願し、松吉の命を救ったのです。
そこで、鶴之輔・稀惺かずとさん登場。
仇討ちの場面の幼少の鶴之輔は、湖ノ花なりさんが演じていらっしゃるので、稀惺さんはここで初登場となります。
白い着物、白地に黒のストライプの袴。
髪は頭の高い位置で結っています。
眩いばかりの若侍姿にウットリ🤩
雪に耐えて咲く梅の木を背に、「俺の道を返せ」と歌います。
目がキラキラしていて、その目の動きが美しいです。
和助が、「銀二貫は、生きることを望んだあの瞳の値段だ」と歌う気持ちに納得の瞳です。
声量も豊かで、ビブラートも心地良く情感たっぷりの美しい歌声です。
軽やかな大阪弁でのお芝居。
大坂の明るい商人たちが生き生きと舞台に息づいていて、町娘たちも明るくてかわいいです。
そして、吉﨑憲治さんと植田浩徳さんが作曲・編曲を手掛けていらっしゃる曲がとても優しいです。
稀惺かずとさんが演じているのは、松吉(彦坂鶴之輔)。
寒天問屋「井川屋」の丁稚です。
10代前半から30代前半までを演じていらっしゃるのですが、
衣装やかつらの力に頼るだけでなく、表情や振る舞いから成長過程が伝わってきます。
少年の面影を残すお顔から、すっきりと責任ある大人の表情への変化は、
「稀惺さん、開演してから身長が伸び痩せられましたか?」と疑ってしまうほど。
凛々しくて清々しくて、素直な松吉。
大切な銀二貫で救ってもらった命を大切に、父親が残した「生き続けろ、何があろうとも」という言葉を守るため、
周りの人に感謝して生きる姿がいじらしいです。
稀惺さんの清潔感あふれる舞台姿と松吉の人柄が重なります。
同じ井川屋の丁稚である亀吉(凰陽さや華さん)や梅吉(馳琉輝さん)、
女衆のお清(藍羽ひよりさん)から、丁稚としての姿勢や言葉を学びます。
返事は「はい」ではなく「へい」。
「おいでやす」、「まいどおおきに」、「ありがとさんでございます」。
背筋がピンと伸びているので、「姿勢は低く前かがみで背中は猫背」と注意されます。
それを、一生懸命復唱して身に付けようとする姿もかわいらしいです。
亀吉や梅吉、お清も、純真で人をうらやむことなく接する姿に心があたたかくなります。
松吉の命の恩人である和助をはじめ周囲の人間は、大坂の商人なので、淀みなく多くの言葉を話します。
松吉は、何も言わず、じっと聞いている場面が多いのですが、話している人をじっと見つめて、時に戸惑いながらも、
誠実にじっと聞いている姿がかわいいです。
稀惺さんセリフを話さない時の表情、佇まい、お芝居力が素晴らしくて見入ってしまいます。
人形浄瑠璃「曽根崎心中」が演じられる場面では、徳兵衛の人形を稀惺さんが演じています。
これまでの静かな中にも豊かだった表情とは一転、本当の人形のように無表情で、
目は一点を見つめ、黒衣に操られるがまま。
お顔の血色感さえ失われ、お肌の質感も人形のように見えるほどでした。
その場面で太夫を演じられた彩紋ねおさんと藍羽ひよりさんの歌声とハーモニーが素晴らしかったです。
そして、黒衣のみなさん(碧海さりおさん・紘希柚葉さん・羽玲有華さん・世晴あささん)の
スンとした静なる表情と所作も美しかったです。
真帆の父親の嘉平が作った琥珀寒を食べた時の可愛いお顔😊
目を輝かせて、何とも言えない可愛いお顔で食べるんです。
寒天の味わいを理解できずに仕事をしていた松吉は、真帆と嘉平の計らいで寒天の価値に気づくことができたのです。
人が何かに気づく時には、導いてくれる誰かとの出会いも大切なんですね。
稀惺さん演じる松吉の、瞳の奥と涼し気な目元には、聡明さが宿っています。
商人として生きていく中でも、侍の息子として父親から学んだことも大切にしていると感じられます。
第一幕のラストでは、大規模な火災が起こり、赤い炎の中を人々が逃げ惑います。
行方が分からなくなっている真帆を懸命に探す松吉の「いとさーん!」という見事な美しい叫びで幕がおります。
真帆の無事を心から願う叫びです。
第二幕になると火事から7年が経過。
火事で行方が分からなくなった真帆を思い続け、悲しみをたたえる松吉の目が辛いです。
すべての表情と視線のキメが美しい稀惺さん。
洋物のお芝居とは、また違う感情表現が必要な日本物のお芝居。
耐え忍ぶことを美徳とする時代なので、表情の作り方や身体の動かし方が静か。
でも、感情はしっかり伝わってきます。
乙華菜乃さんは、料理屋「真帆屋」の娘・真帆、団子屋・お広の娘・おてつ。
宝塚市のお隣、兵庫県川西市ご出身。
2020年に入団された106期生。
主演の稀惺さんより1期下です。
2024年の「RRR×TAKA”R”AZUKA〜√Bheem〜」で新人公演初ヒロイン。
今回の『銀二貫』で、バウホール公演初ヒロインです。
明るく溌剌とした姿がとても可愛らしく、松吉が一目で気になったことに納得の惹きつけ力。
声も元気でとても真っ直ぐな真帆。
10歳から20代後半までを乙華さんが演じます。
父親の嘉平に、背伸びをしながら一生懸命耳打ちする姿は、まさに女の子。
父親の料理の腕前を心から信頼し、父親のことが大好きでたまらない様子が伝わってきます。
人に惑わされることなく自分の見る目を信じて人と向き合う、愛情深い朝水りょうさん演じる嘉平。
立ち姿と存在感がステキ過ぎますね🥰
人の心に敏感で優しい乙華さんの真帆。
松吉が寒天の味わいを理解できないまま仕事をしていることに対して言った「しんどいな」という一言。
松吉の気持ちに寄り添い、優しさあふれる一言がとても印象に残っています。
子ども時代は感情が分かりやすく元気に表現され、成長してからは自分の悲しみや気持ちを押し殺して、
人のために生きる姿を表現されています。
あまりに耐えることが多い境遇に、幸せになってほしいと心から願わずにいられません。
専科の汝鳥伶さんは、寒天問屋「井川屋」の主人・和助。
登場されただけで泣きそうになる哀愁と愛嬌。
「なんもかんも捨ててしまわな始まらん道もある」などの生きる上での名言を、説得力を持って話されます。
思わずメモしたくなる名言が、このお話にはたくさん出てきますね。
人の気持ちに寄り添い、誰のことも悪くしない優しさあふれる汝鳥さんの和助です。
輝咲玲央さんは、寒天問屋「井川屋」の番頭・善次郎。
主人である和助を誰よりも信頼し尊敬しているからこそ、井川屋のこと、和助のことをとても心配しています。
大坂の商人らしい気の強さと、その裏側にある愛情深さ。
素直になれないところも魅力的な輝咲さんの善次郎です。
和助と善次郎の作り出す空気感が、その時代の人情そのもの。
松吉を出迎えるため、急いで店の奥から出てくる二人も愛おしすぎます。
もうお芝居を越えていますよね😊
第二幕の幕開け、天満宮の再建のお祭りで裃姿で祭りの謡い手をされた桃李拍さんの、
とても品があって美しい姿と、ステキな歌声が印象に残っています。
真帆と祝言をあげる日、松吉は、自分と関わってくれたすべての人々に感謝の気持ちを伝えます。
仇討ちで亡くなった父親の残した言葉も、大切に生きてきた松吉。
22年経って流暢な大阪弁、商人の言葉を話すようになった松吉の成長した姿に胸がいっぱいになります。
銀二貫で命を助けてもらったことのお礼を伝えられた和助。
「そないな昔のこと」と忘れたふりをし、恩着せがましく振舞わない商人魂を感じます。
22年間という長い時間かかって、やっとあの時の銀二貫を天満宮に寄進することができたこと。
その時間の長さを、和助(汝鳥伶さん)と善治郎(輝咲玲央さん)の髪色と、
老いを表現するお二人のお芝居から感じさせていただけます。
「色々あったな」
「ええ買いもんしたな」
「ほんまに安うてええ買いもんでおました」
と、二人で懐かしく笑顔で振り返り歌う姿に涙があふれます。
「もう少し、少しだけ、生かさせてもらいまひょ。」
と、優しい涙を流し、笑顔で歌う二人の長生きを祈らずにはいられません。
松吉と真帆の婚礼の場面には、満開の梅の木が。
冬の寒さに耐えて咲く梅と、様々な困難に耐えて結ばれた二人。
紋付袴の松吉と白無垢・綿帽子の真帆が舞います。
その幸せそうな姿を後ろからそっと見守る真帆の父・嘉平(朝水りょうさん)と、
火事のあと真帆をおてつとして育てたお広(瞳きらりさん)。
その姿が見えた瞬間、私は号泣してしまいました。
二人の結婚のお祝いにみんなが集まり笑顔で拍手。
二人がお辞儀でこたえるのが、終演のごあいさつとなっています。
自分よりも人のことを考える人情。
キャストのみなさん、スタッフのみなさんの愛にあふれた舞台。
清らかな涙を流し、あたたかい気持ちになることができました。
6月27日(土)14時30分からの千秋楽は、ライブ配信が行われます。
詳しくは、宝塚歌劇公式ホームページをご確認ください。












