宝塚バウホール 雪組公演 バウ・ヴォードヴィル 『39 Steps』

宮村裕美です

 

現在、宝塚バウホールにて上演中の雪組公演

バウ・ヴォードヴィル『39 Steps』。

 

脚本・演出は、田渕大輔さん。

 

主演は、専科の凪七瑠海さん。

凪七さん、そして雪組生20名が出演されています。

 

内容は、お芝居とショーの二部構成となっており、

第一幕は1時間5分、第二幕は35分、

幕間の25分も含めても計2時間5分と

通常のバウホール公演よりもコンパクトな作品です。

 

しかし、そんな短い時間の中にも贅沢なひと時が凝縮されており

とても楽しい素敵な公演となっております。

 

 

第一部のお芝居は、ジョン・バカン著のサスペンス小説

三十九階段を元に宝塚のオリジナル版として、田淵さんが脚本・演出をされたミュージカル作品。

 

物語の舞台は、1914年初頭のロンドン。

巷で評判のミュージックホール「アリアドネ」を訪れたリチャード・ハネーは、退屈なこの街の暮らしに飽き飽きとしていました。

しかし店を出た彼がアパートの自室に帰り着くや否や、瀕死の男が突然部屋に押し入り、「THIRTY NINE STEPS…」という謎の言葉を遺して事切れます。

ハネーは自身に向けられた殺人容疑を晴らすため、男のダイイング・メッセージを解き明かそうとするのですが…という物語。

 

今回の公演は、なんと宝塚ニューサウンズの皆さんによる生演奏となっております。

バンドの皆さんが舞台上にいらっしゃり、一幕も二幕も同じセットを使用するのですが、セットの下側で演奏をされているため、演奏されている皆さんの姿もしっかりと見ることができます。

 

凪七瑠海さんが演じるのは、リチャード・ハネー。

品の良い青年で、凪七さんご自身の爽やかで上品な雰囲気がありながらも、野々花さん演じるアリスと豪快に笑いあうなど、チャーミングさもあり、最初は振り回されていたアリスがあれ…と、気が付けばハネーに惹かれるのも納得の魅力があります。

 

今回、凪七さんはそれはそれは非常に真剣に、本気で演じていると思うのですが、犯人として容疑をかけられているため、「そのままの姿で家に戻ることはできない…。よし変装しよう!」と、全力で変装するところがあるなど、チャーミングな凪七さんが様々な場面にて見ることができます。

そして、退屈な毎日に飽き飽きしていたハネーが生き生きと輝きだす瞬間が見ていてとても分かりやすく、そんな等身大なハネーをナチュラルに演じられる凪七さんがとても素敵でした。

 

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野々花ひまりさんが演じるのは、ミュージックホール「アリアドネ」の踊り子、アリス。

登場されてきた時からパッとその場が明るくなる華やかさがあり、野々花さんと久城あすさんで踊られる個所がいくつかあるのですが、華やかなダンスに美しい歌声と、客席の私たちもアリアドネにいるかのような空気感に誘われ、楽しい雰囲気に自然と酔いしれます。

 

突然キスをしてきたり、殺人の容疑がかけられていると告げられたり、最初はハネーの言動に戸惑うところもあるのですが、気づけば事件解決のために全力で協力をしてあげる、優しく温かい人柄もキュートな役どころです。

 

特に私が好きな場面は、ハネーとアリスがベンチにいるところに警察官が通りかかってしまい、ハネーの存在がバレないよう、気を散らすために「はぁ~い!見守りご苦労様!」と、警察官に声をかけるところです。

この時の野々花さんの声や表情が、お姉さん風で色っぽさがある中に爽やかな可愛らしさが素敵だということはもちろん、その後ハネーとアリス、ふたりで大きく笑いあう流れとなり、グッとふたりの距離が縮まるシーンの一つと思うので、この場面が印象に残っています。

 

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叶ゆうりさんが演じるのは、頬に傷のある牧師。

登場シーンからすでにただの牧師ではないことが分かる教会のシーンが魅力的です。

 

照明が赤っぽいというのもあり、修道女役の娘役さんたちを率いて踊られる叶さんは、「ロックスター?」と思ってしまうほど、スターのオーラに溢れています。

 

叶さんと共にお芝居をされているのは、牧師の手下を演じている、壮海はるまさん・蒼波黎也さん。

 

スラッとかっこいい3人が立ちはだかる姿がお顔の表情も含めて圧があり、とってもかっこいいのですが、ただかっこいい悪人というわけではなく、ちょっぴり残念なところが憎めない悪役です。

最初の方は手荒な真似はしたくない…という風に比較的穏便に行こうとするものの、凪七さんハネーが持つ手帳をどうしても手に入れたい!と、つきまとい、最終的には「アリアドネ」の皆さんに邪魔をされてしまい、バッタバタになってしまうなど、思いのまま上手くいかない時の表情が非常に可愛らしく、是非ともこれからご観劇される方には、この3人の豊かな表情やお芝居にもご注目いただけたらと思います。

 

紀城ゆりやさんが演じるのは、「アリアドネ」のバーテンダー、ジャック。

大人っぽくてかっこいいバーテンダーというよりかは、親しみやすく可愛らしい印象です。

明るい雰囲気をまとっており、様々な人と舞台上で喋っているのですが、そんな話している最中も常にほんわかとした優しい空気が広がっています。。

「アリアドネ」の女性陣からは、「もう邪魔!」という風にないがしろにされているところもあったりと、何だか強めに対応されているところも愛らしくチャーミングで、紀城さんの持つ、柔らかな雰囲気ととても合った役だと感じられました。

 

 

二幕は、一幕のお芝居の場所ともなったミュージックホール「アリアドネ」でのショータイムとなっています。

二幕が始まる5分前には、39stepsと可愛らしい電飾が階段の上に登場し、開演時間が近づくとバンドの皆さんの演奏が始まります。

 

幕開けと共にそこに現れるのは、全身真っ白の衣装な凪七さん。

プリンスのような上品さがありながらも、ハットから見える目線はかっこよく、そのギラギラとした男役のかっこよさとのギャップが絶妙なバランスとなっています。

 

普段は男役として柔らかな雰囲気や、穏やかな落ち着きが印象的な凪七さんですが、この場面にて娘役さんと踊られるときのキリッとした表情が本当にかっこよく、娘役皆さんの大人っぽい衣装やカツラなども合わせて、とても大人っぽく皆さん踊られています。

 

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その後、男役の皆さんが登場し踊られ、凪七さんがはけられたあとは、若手の男役の皆さん計8名で歌い、踊られるSecret Agent。

なんと、客席にも降りてこられるのですが、キラッキラな笑顔で客席に来られるので、こんな近い距離で浴びるには危険すぎるキラキラオーラ…と、一瞬まじまじと見ていいものか戸惑うほどの輝きとかっこよさがあります。

 

それぞれの個性が溢れたかっこよさが魅力となり、おひとりおひとりを目で追っているとあっという間に終わってしまうフレッシュな場面でした。

 

続いては、マタ・ハリ幻想。

プログラムを見て、あのマタ・ハリを凪七瑠海さんが演じられるのですか?と、通し舞台稽古が始まる前から非常に楽しみにしていたのですが、いざ目の前にマタ・ハリに扮する凪七さんが現れると、あまりにも美しすぎるその姿に、思わず息をするのを忘れてしまう、芸術品のように美しいひと時でした。

 

どの動きも魅惑的で美しく、にこやかな表情をしたかと思えば、そのすぐ後には凍り付くような冷たい目をするときの表情の変化にゾクゾクとする、溺れるという言葉がぴったりな、自然と目で追わずにはいられない夢中になってしまう色気がありました。

 

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続いては、キュートな3人組が登場するのは、ミッション・ポッシブル!。

ミッション・インポッシブルといえば!の音楽にのせて登場するのは、名探偵ニワニワこと、奏乃はるとさん。

助手のヒマリこと、野々花ひまりさん。

そして同じく助手のサランこと、紗蘭令愛さん。

 

Mr.カチャからの犯行予告が届くのですが、Mr.カチャとはどういう人物なのかという説明に合わせて、これまで様々な役を演じてこられた凪七さんの大きな写真が後ろの幕に順番に映し出されるのも、見逃せないポイントの一つです。

 

ちなみに、Mr.カチャとはプレイポーイの大怪盗で、夜な夜なクラブに現れては、美しい女性のハートを盗み取るのが手口とのこと。

ということで、そのままクラブ「コパカバーナ」へ。

 

犯行予告通りクラブに現れたMr.カチャこと凪七さんの、その足の長さとイケメンっぷりに、確かにどんな女性をも虜にしてしまうのも納得…と思っていると、様々な女性たちと踊ったあとに、最終的にMr.カチャが選んだのはなんと助手のヒマリ!!

凪七さんと踊られるまでは眼鏡を掛けて小道具を持ってと助手そのものの野々花さんが、眼鏡を取った途端、とびきりかっこよく凪七さんと踊りだすギャップも素敵でした。

 

続いて、出演している娘役全員の場面であるHanky Panky。

娘役皆さんだけの場面というのもあり、舞台に様々な花が咲いたように鮮やかな美しさで溢れています。

ハットを被って歌い、踊られるのですがそれぞれが前に出てきて歌うパートなどもあり、可愛くもかっこいい娘役皆さんに思わず目がハートになってしまいました。

 

そんなキュートな場面の後は、男役の皆さんによる黒燕尾での群舞。

セットの上から凪七さんをはじめとする男役の皆さんが順番に登場されるのですが、凪七さんを挟むように両隣で雪組生が階段を降りていく中、凪七さんがこちらを向きながらポーズをするのですが、この一つ一つのポーズが優美さそのもので本当にかっこよかったです。

 

黒燕尾に添える手元、踊りながら肩を入れる角度、指1本1本の美しさと、どの瞬間も美しく、本当にここまで男役を追求されてこられた、凪七さんらしいロイヤルな男役像を堪能できる素敵な男役群舞となっています。

 

そんな素敵な流れで続くのは、プログラムでは、ブルーダイヤモンドと表記されている、青いドレスに身を包んだ娘役皆さんと凪七さんの場面。

壮海はるまさんの歌に乗せて、娘役の皆さんに囲まれ凪七さんが踊られます。

 

凪七さんに、妃華ゆきのさん、莉奈くるみさんが寄り添って踊るのですが、この時の幸せそうに柔らかな表情で微笑む妃華さんと莉奈さんが印象的です。

また、凪七さんもそれはそれは優しげな雰囲気で、娘役皆さんのことを包み込んでおり、凪七さんの周りで踊られる皆さんがふわっと花を咲かせるように輝かしい表情で踊られる姿に、空間までもが美しく心を奪われました。

 

そんな幸せいっぱいな雰囲気に続き、最後は凪七さんと野々花さんでのデュエットダンス。

凪七さんが舞台前方で踊られる中、野々花さんがセット上から登場されます。

 

野々花さんが登場されてから舞台下に降りられるまでは距離があるはずなのに、同じ空気感で踊られるのが伝わってきて、おふたりを収めようと通し舞台稽古にて撮影させていただいた写真は、どれも絵画のように美しい瞬間ばかりでした。

 

シャンパンゴールドのような優しげな暖色系に繊細な刺繍やラメ、ビジューが付いた衣装の裾を持ち、野々花さんが階段を降りてこられる瞬間も魅力的で、野々花さんが踊られるたびにふわっと広がるドレスが夢そのもので、凪七さん・野々花さんが共に心を通わせているのを自然と感じられます。

 

振り数が多かったり、派手な振り付けのあるデュエットダンスではないからこそ、ゆったりとした中に心地よい余白があり、腕を前や上に伸ばす振りや、顔を近づけての振り付けなど、まるでハネーとアリスの関係性が反映されたかのようなロマンチックなデュエットダンスに、胸がいっぱいになるフィナーレでした。

 

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現在、宝塚バウホールにて上演中の雪組公演

バウ・ヴォードヴィル『39 Steps』は5月5日(日)までの上演です。

 

5月4日(土・祝)15時公演は、タカラヅカ・オン・デマンドにてライブ配信がおこなわれます。

詳しくは、宝塚歌劇の公式ホームページをご確認ください。