梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ雪組公演『FORMOSA!!』-空想世界の歩き方-
樽井美帆です
梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ雪組公演
西洋奇譚『FORMOSA!!』-空想世界の歩き方-
が、12月2日(月)から11日(水)まで上演されています。
作・演出は熊倉飛鳥さん。
主演の縣千さんは、2015年に初舞台を踏まれた101期生で入団10年目。
新人公演では主演を3度つとめられました。
2022年『Sweet Little Rock ‘n’ Roll』で宝塚バウホール公演初主演。
そして今回が東上公演初主演となります。
出演は雪組29名のみなさん。
18世紀に実在した、究極の偽書「台湾誌」の作者
ジョルジュ・サルマナザールを主人公に、名声の高まりと顛末を描いた作品です。
18世紀初頭。
当時、西洋人にとって未知なる土地がありました。
それは遥か彼方、東洋に浮かぶ島・フォルモサ。
しかしフォルモサ人を名乗る謎の男“ジョルジュ・サルマナザール” の出現によって、
その印象が一変します…。
修道士としてヨーロッパを放浪していたジャン(縣千さん)は、
旅の途中でイギリス国教会の牧師で詐欺師のイネス(華世京さん)と出会います。
自分を日本人だと騙り日銭を稼いでいたジャンですが、イネスにその嘘を暴かれ手を組むことに。
二人はロンドン主教を騙して多額の施しを受けるという一攫千金を企み、イギリスへ渡ります。
イネスの指示に従い、語学と知識を駆使して完璧な架空の国・フォルモサを創り上げ、
“ジョルジュ・サルマナザール”を騙り始めたジャンは、
類まれなるペテンの才能を発揮していくのです。
空想から生み出されたフォルモサについて堂々と語り、
人々からの質問にも矛盾なく答えるサルマナザールは、
海の彼方から来た信心深いフォルモサ人修道士として社交界の信頼を獲得、
その存在をロンドン主教にまで知らしめていくのでした。
ある日、サルマナザールはフォルモサ人との出会いに心ときめかす
一人の令嬢シェリル(音彩唯さん)に出会います。
そして、シェリルはサルマナザールを地理学者である父オリバー(久城あすさん)に引き合わせます。
サルマナザールの嘘を見抜いたオリバー。
自身の生きる道に迷いが生じ始めたサルマナザールは、
シェリル親子との出会いによってどのように変わっていくのでしょうか。
幕が開くと、音彩唯さんの力強い語りに合わせて、古代エジプトを思い起こすような
白い衣装の娘役さんが踊っています。
オリエントな雰囲気が漂うエジプトのような、そうでないような初めて見るような国に見えます。
「これからお話しするのは、そんな小さくて大きな空想家のお話し」という
音彩さんの言葉をきっかけに登場する縣千さん。
足首まである丈の長い紺色の衣装、白いマントのような上着。
この衣装も一目ではどこの国のものか判別ができません。
がっしりとした縣千さんのスタイルにとてもよくお似合いです。
目をキラキラさせて空想の世界を創り出す楽しさを明るく歌います。
物語を観終わった時、ただただ空想することを心から楽しんでいた頃の
澄んだ目を思い出すと切なさで胸がいっぱいになりました。
また、大劇場には盆と呼ばれる廻り舞台があるので、場面転換で舞台が回ることはよくありますが、
大劇場以外の劇場で場面転換のために何度も舞台が回っていたことが印象的でした。
縣千さんが演じているのは、フォルモサ人を名乗る謎の男ジョルジュ・サルマナザール。
セリフの量が膨大!
華世京さん演じるイネスとの緊迫したセリフの攻防、
それも長い時間にわたってという場面もありました。
セリフの攻防にプラスして、お二人の目力と迫力もありましたので、
私もグッと腹筋に力を入れて息も止めて、聞き入り見入ってしまいました。
縣さん演じるサルマナザールは、ただ単にウソをついてでたらめを言っているというような
軽い言葉を話しません。
自分を日本人だと偽っている時に、日本語について質問されます。
王様、貴族、兵士、農民は日本語で何というのかと次々聞かれますが、
目を輝かせ手を広げて自分を大きく見せ自身満々に、そして相手に近づきながら
あまりに見事に余裕で答えるので、聞いたことがない言葉だったにも関わらず、
日本語でそう言うのだったかしら?と信じそうになってしまいました😅
空想をかたるスイッチが入ると、目の奥が光り口元も自信に満ちて口角が上がり、
手も雄弁に語り出します。
でも、意気揚々と空想をかたり続ける姿には危うさも、
縣さんの端正なお顔の表情の変化から感じました。
私は特にアイメイクに注目したのですが、まぶたの上下ともに、
目頭側半分にグレーのアイシャドウ、目尻側半分に濃いピンクのアイシャドウを
塗っていらっしゃるように見えました。
それが陰と陽を表しているように感じました。
すべてが空想に支配された根っからのペテン師ではなく、
元々持っている純粋に空想の世界を楽しむ気持ちや明るい性格を感じました。
本当の自分ジャンに戻った時には目から闇の光が消え、とても優しい眼差しに。
シェリルに想像力の大切さを伝える姿は、本当にあのサルマナザールなの?と思ってしまうほど
柔らかい表情でした。
縣さん演じるサルマナザールが空想上の人物や出来事を生き生きと話すので、
今のは本当のこと?現実の世界のこと?それとも空想のお話し?と
自分自身が迷子になりそうな不思議な世界を味わわせていただきました。
音彩唯さんは、地理学者オリバーの娘シェリル。
好奇心旺盛で前のめりなシェリル。
セットの背景に顔のある太陽が描かれているのですが、
その太陽がまさに音彩さんのシェリルなのではないかと思いました。
シェリルの明るさこそが、サルマナザールにとって希望であり救いになったのではと感じました。
シェリルの妹メイベルを演じていらっしゃる星沢ありささんの透明感ある笑顔と
清潔感あふれる姿も印象に残っています。
姉妹の父親は久城あすさん演じるオリバー。
サルマナザールに語り掛けるように、優しく諭すように歌う歌声には
心が柔らかくなる感動を覚えました。
サルマナザールの心もとけていきました。
オリバーは、人の本質を見抜きながらも決して善悪を押し付けない素晴らしい父親で、
その父親に育てられたことが納得の愛らしく人の気持ちに寄り添える音彩さんのシェリル。
心がキレイで人の心を溶かす力を受け継いでいると感じました。
縣さんの歌に寄り添う歌声も美しかったです。
イギリス国教会牧師かつ詐欺師イネスは華世京さん。
2020年に初舞台を踏まれた106期生。
入団5年目です。
説得力のある歌声。
悪役を演じるパワーとエネルギーに満ちあふれていらっしゃいました。
ニヤ~とした口元とギラギラした目で、少し弱気になりかけるサルマナザールをあおります。
騙しお金を奪うことに取り憑かれたこんな表情で迫られたら、逃れられないのも納得の迫力でした。
華世さんの目のギラギラはずっと宿り続け、危険な光になっていきました。
ロンドン教会司祭ダマルフィの眞ノ宮るいさん。
眉間にシワを寄せて、常にサルマナザールのことを怪しんで考えている鋭い目と表情がカッコイイ!
声が深くて甘いくて、そのギャップに惹かれました。
咲城けいさんは、空想上の革命家メリヤンダノー。
アイシャドウとアイラインの目尻を跳ね上げたメイクが美しく妖しい存在感。
咲城さんの目線と表情、発する体温から、
現実に息づいているのではなく、空想上の人物であるということが伝わってきました。
冷たい視線と動きの美しさに引き込まれました。
天文学者エドモンド・ハレー蒼波黎也さん
セリフが耳に心地よく、存在感が光っています✨
妃華ゆきのさん演じるイギリスのアン女王が
サルマナザールに称号を授けようとする場に颯爽と現れひざまずく姿、
優雅な目線と動きは、新人公演『ベルサイユのばら』で演じられたフェルゼンのようだと思いました。
お芝居のあとはフィナーレがありました。
シフォン生地のような軽やかなラベンダー色の変わり燕尾に白いパンツ姿の男役さんの群舞。
『ベルサイユのばら』のロイヤル感が感じられる男役の群舞でした🤩
そこに紫の衣装の縣千さんが加わりダイナミックな群舞へと展開していきます。
縣千さんと音彩唯さんのデュエットダンスは赤い衣装。
どこかの民族衣装にも見える衣装でした。
音彩さんの頭の飾りが、お花が使われたとても豪華な冠でとても美しかったです。
飛んだり跳ねたり回ったり、まるで空想の世界を旅をしているかのような
楽しさと愛あふれるダンスでした。
この舞台を観終わった時から、色々な場面を思い出しては答え合わせをしているような気持ちです。
そして、『FORMOSA!!(フォルモサ)』という言葉が頭から離れません。
それだけ色んな見方、考え方ができる作品なのかなと感じています。
2025年1月8日(水)から13日(月)まではKAAT神奈川芸術劇場にて上演されます。