梅田芸術劇場メインホール花組公演『Goethe!』

樽井美帆です

 

梅田芸術劇場メインホールにて、花組公演A New German Musical『Goethe(ゲーテ)!』が、

12月1日(月)から11日(木)まで上演されています。

11月16日(日)から24日(月)までは、東京国際フォーラム ホールCにて上演されました。

 

主演は、花組トップコンビ永久輝せあさん・星空美咲さん。

日本語脚本・訳詞・演出は、植田景子さん。

出演は、花組25名のみなさんと専科の高翔みず希さんです。

 

『レビュー・ステイション』にご出演いただきました彩城レアさんは音楽助手、

千海華蘭さんは振付助手と関わっていらっしゃいます。

 

『Goethe!』は、2021年に初演されたドイツミュージカル。

歌劇11月号の植田景子さんのお話しによりますと、

日本でのドイツミュージカル上演はほぼ初めてとのこと。

今回の花組公演は、そんな珍しいドイツミュージカルである『Goethe!』の日本初演となります。

 

ゲーテといえば、宝塚歌劇では、2013年の宝塚バウホール雪組公演『春雷』や、

2021年の雪組公演『f f f -フォルティッシッシモ-』~歓喜に歌え!~

などにも登場するおなじみの人物。

どちらも昨年の『レビュー・ステイション』公開収録にゲスト出演してくださった

彩凪翔さんが演じられました。

永久輝せあさんは、『春雷』でウェルテルの影という役を演じていらっしゃいます。

 

この作品は史実を基にした若き日のゲーテの物語。

若さと情熱、そして恋に生きた詩人ゲーテ。

『若きウェルテルの悩み』が誕生するまでの、真実の愛の物語。

詩人になるという夢と、法律家になることを望む父親との間で葛藤するゲーテは、

赴任先でシャルロッテとの出会いと失恋、そして友人ヴィルヘルムの死を経験します。

そこから書き上げた小説『若きウェルテルの悩み』が一夜にして大ヒットし

作家として歩みだすまでが描かれています。

 

とにかく歌の多さに驚きます!

99.9%くらいが歌なのではないか、逆にセリフはあったかしらと感じるくらい。

歌でつむぐ作品といえば『エリザベート』ですが、

私の感覚では『エリザベート』よりも断然『Goethe(ゲーテ)!』の方が

歌の量が多いように感じました。

そして、エネルギーや感情、パワーが強く熱い作品なので、観る側も体力が必要です。

 

開演前の舞台の幕が印象的。

白と黒の背景に赤いペンキを投げたようなスプラッシュ。

そして、ゲーテのサイン。

その赤いしぶきには勢いがあり、開演前から色々なことを想像することができます。

この幕は、舞台に照明が当たると、透けて舞台が見える紗幕。

幕が透けてミュージカルがスタートしていきます。

 

ある嵐の夕方。

一人の女性(ロッテ・星空美咲さん)が出版社に原稿を持ち込んでいます。

最初は出版社の編集長(高峰潤)さんに相手にされませんが、

次第に彼女の熱意に動かされ、原稿を手にします。

「その物語の作者は・・・ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ!」

という掛け声から物語が動き始めます。

 

幕開きから登場し、若きゲーテ(永久輝せあさん)とロッテ(星空美咲さん)の心情を

美しいダンスで表現する白い衣装のダンサーは、

ウェルテル(ダンサー) 宇咲瞬さん(宝塚市出身)とロッテ(ダンサー) 稀奈ゆいさん。

 

振付は、元ハンブルクバレエ団ソリスト大石裕香さん。

どんなに絶望的な場面でも、透明感ある美しいダンスに救われます。

言葉以上の思いが伝わってきます。

大石さんが初めて宝塚歌劇の振付を担当されたのは、

2013年の花組公演Musical『愛と革命の詩 -アンドレア・シェニエ-』。

演出は、『Goethe!』と同じ植田景子さん。

蘭寿とむさんと蘭乃はなさんのダンスシーンも美しかったですね。

 

歩道橋のような階段が、終始舞台セットとして使われています。

その階段にも赤いペンキを投げたようなスプラッシュが。

場面によって、明るく弾けた印象になったり、不気味に感じたりします。

 

平面的な馬の顔のイラストを貼り付けた人力車の馬車、そして馬に見立てた自転車も印象的。

永久輝さんと星空さんは勢いよくこいでいらっしゃいました!

キュッとブレーキをかけ、スタンドを立てるお二人が微笑ましかったです。

 

心揺さぶられる音楽の数々。

ドイツ語で歌われることを想定し作曲されているからか、力強いナンバーが多いように感じました。

最初から最後まで、一本の太いパイプが通っていて、フォルテで歌い、

フォルテで伸ばしきって終わる感じ。

メロディーの裏の伴奏が小刻みに演奏され、強い鼓動のように感じられ、

聞いていて自然と気持ちが高ぶっていきました。

 

永久輝さん・星空さんをはじめ、みなさん歌詞がクリア。

1曲の中で、何人もの人が、一言だけ歌って、また次の人が歌うというような構成でも、

すべて歌詞がクリアで流れが止まらない圧巻の歌唱力に感動しました。

 

永久輝さんの歌声は、とても明るく優しい声質で心地いいですね。

まず劇場の天井に声がのぼっていって、360度身体を包んでくれるような響き。

 

星空さんは、かなり高音域を歌われますが、透明感があってキラキラ輝いたお声。

高音でも声量が落ちたり弱々しくなることがなく、絶叫するかのように歌う場面では、

ゲーテに伝えたいというロッテの気持ちが痛いほど伝わってきて心が震えました。

高音にものすごいパワーを感じる歌声でした。

 

若きゲーテ・永久輝せあさんとヴィルヘルム・聖乃あすかさんが二人で歌う場面での、

声量が落ちないロングトーンも圧巻。

 

ヴィルヘルムの恋人マルガレーテ・美空真瑠さん。

今回は女役を演じていらっしゃいます。

切れ長に描いた目が色っぽく、深い憂いや人妻感が漂っていました。

人妻なので、決して愛に浮ついているのではなく、

罪悪感を感じながらも抑えられない愛を歌う歌声が切なく美しかったです。

ロッテ・星空さんとの愛の絶唱も見どころ、聞きどころの一つ。

 

若きゲーテ・永久輝さん、ロッテ・星空さん、ヴィルヘルム・聖乃さん、

ヴィルヘルムの恋人マルガレーテ・美空さんの4人で愛を歌う場面。

最初はにぎやかな伴奏で歌っているのですが、少しずつ伴奏が減り、最後は4人の歌声のみに。

人の声だけになることで、より愛が伝わってきました。

豊かな声量の素晴らしいハーモニーが響き渡りました。

 

永久輝せあさんは、若きヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ。

詩を作る才能にあふれた魅力的な青年です。

切ない眼差しと口角の上がった美しい唇という奇跡のお顔立ちの永久輝さんにしか出せない表情に、

胸がキュンとなりました。

とにかく真っ直ぐで一生懸命で、ちょっと危なっかしいゲーテに夢中になってしまいます。

 

花組『Goethe!』3

 

星空美咲さんは、シャルロッテ・ブッフ(ロッテ)。

芸術を愛する、感受性に富んだ女性です。

ゲーテに「あなたが詩を作るまで私息をしないから」と言い、ふくれっ面をするのが可愛すぎです!

歌いながら気の強いことをゲーテに言うのも可愛らしいです。

そんな可愛らしいロッテが、自分の家族を守るために、

自分の意思とはかけ離れた結婚をすることになった時に見せた

絶望からの抜け殻のような無表情は別人のよう。

ゲーテが虜になったことに納得の感受性豊かな星空さんのロッテですね。

最後にゲーテに大きな愛を授けたロッテは、女神のように神々しかったです。

 

花組『Goethe!』2

 

伏し目が美しい永久輝さんと星空さん。

見つめ合わずとも痛いほどお互いへの思いが伝わってきます。

 

花組『Goethe!』4

 

ゲーテの友、ゲーテと共に法律を学ぶ夢見がちな青年ヴィルヘルム・イェルザレムは、

聖乃あすかさん。

儚さが漂い、ずっと目が潤んでいて、触れたら消えてしまいそうな雰囲気。

追い詰められ憔悴していく姿が痛々しく、悲しくも優しい歌声に心が震えました。

 

花組『Goethe!』1

 

ロッテの未来の夫アルベルト・ケストナー侑輝大弥さん。

有能で模範的なエリート弁護士であることが、登場しただけで伝わってきます。

動きが機械的で、目の動きが少ないにも関わらず、

存在感があってダイナミックに感じるのが侑輝さんのスゴイところだなと感じました。

情熱的でまだヤンチャさが残るゲーテとの対比の説得力が見事な侑輝さんのケストナー。

ゲーテとロッテの仲を知り、嫉妬からゲーテを煽る歌の時の目つきは恐ろしかったです。

深いところから黒さを出せるのが侑輝さんの魅力。

どんな手を使ってでも愛するロッテを手に入れたいと思っている彼なりの愛も感じました。

 

夏希真斗さんは、メフィストフェレス。

ゲーテの晩年の小説「ファウスト」に登場する悪魔です。

虚構と現実が交じり合う世界が描かれる場面に登場し、見事に雰囲気を変えられました。

胸元や袖はレース、皮膚と一体化したような光沢あるパンツ、

チュールのボリュームあるスカート、ロングブーツは全て真っ赤。

黒髪をピタリとなでつけ、メイクも人間とはかけ離れているけれども色っぽい。

女性でもなく男性でもない、美しき悪魔。

色っぽいダンスを披露され、魅惑的な視線や指先の動きに酔いしれてしまいました。

そして、高音も低音も美しく響かせ色々な声で歌われました。

 

ゲーテの父・高翔みず希さんとロッテの父・峰果とわさん。

詩や物語の創作に打ち込む息子の将来を心配し、優しく諭す歌声。

あたたかい眼差しで見つめ、娘の幸せを心から願う歌声。

二人の父親の親心が染み渡る歌声、最高ですね。

父親の思いと自分の感情の板挟みになるゲーテとロッテ。

若い二人の葛藤が痛いほど伝わってきました。

 

花組『Goethe!』5

 

とても可愛いロッテの弟妹たち。

妹アンネは、七彩はづきさん(宝塚市出身)。

弟や妹たちを、自分の元へ引き寄せて愛情いっぱいに見つめ、

姉のロッテが幸せな時も辛い時も寄り添うアンネ。

周りの人々に美しく寄り添い、あたたかく深い愛をしっとり表現される七彩さん。

歌声もとても美しかったです。

 

植田景子さんの透明感ある舞台と繊細な心情表現演出にも、どっぷり浸ることができる公演。

これまでにまだ見たことがない、宝塚歌劇の新たな可能性と魅力に引き込まれる熱い公演です。